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絶界の浮遊島リゾート〜巫女さんとゴーレムと一緒に、雲の上で最高のDIY生活を始めました〜  作者: 寝不足魔王


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第9話:【前編】『自動掃除ビットの行進曲(マーチ)』

 絶界の浮遊島に、蒸気と安らぎの朝が訪れた。

 拠点である儀式の間の一角に設けた露天風呂からは、今朝も絶え間なく白い湯煙が立ち昇り、雲海と同化するように流れている。レンは風呂上がりの火照った身体に、清浄な風を感じながら大きく伸びをした。


「最高だな! 朝風呂に採れたて野菜の朝食。これこそが文明人の送るべきルーチンワークだ!」


 レンは傍らで大人しく待機していたポッドの頭を、パンと景気よく叩いた。

 だが、リゾート地の平穏を乱す不届き者は、どこにでも現れる。

 

 ――羽音。

 ジジッ、と空気を切り裂くような不快な音が、レンの耳に届いた。

 雲海の底から湧き上がってきたのは、体長三十センチほどもある巨大な羽虫――『雲海飛虫』の群れだった。奴らは島の再起動によって溢れ出した新鮮な魔力の匂いに誘われ、吸い寄せられるように拠点のダイニングエリアへと侵入してこようとしている。


「レン! 避けてください! その虫は魔力を喰らい、麻痺毒を撒き散らす厄介な害獣です!」


 シアが隠し部屋から杖を手に飛び出してきた。だが、レンは慌てない。彼は既に、昨夜のうちにこの事態を予測し、対策デバッグを済ませていた。


「慌てるなシア! 害虫が出るのは環境が良くなった証拠だ。そして、害虫が出るなら『駆除』するのがエンジニアの義務だろ? ビットA、B、C! 特設防衛ライン、通電開始イグニッション!」


 レンの号令と共に、空中に待機していた三機の球体ビットが、ダイニングの周囲を囲むように三角形の陣形を組んだ。

 レンは昨日、彼らの受光板を逆転させ、内部に蓄えた魔力を高電圧の電撃として放つ『魔力式電撃殺虫モード』を実装していたのだ。


 パチッ! バチバチバチィッ!!


 見えない電撃の網に触れた瞬間、飛虫たちが次々と火花を散らして床に転がっていく。


「おおっ! 完璧な捕捉精度ヒットレートだ! まるで青い火花が舞うイルミネーションだな。シア、これでお前のサラダに虫がダイブする心配もなくなったぞ!」


「な……。精霊の加護を待つまでもなく、このような無機質な罠で害獣を退けるなんて。レン、あなたの辞書に『風情』という言葉はないのですか!」


「風情で腹は膨れんし、毒に刺されたらリゾート台無しだろ! 合理性こそが最高の美学だ!」


 レンは鼻歌まじりに、床に落ちた虫の死骸をポッドの『清掃モード』で一気に吸い込ませた。

 だが、虫を追い払ったくらいでは、この島の防衛問題は解決しない。レンは視線を遠方の空へと向けた。そこには、昨日風呂場から見た不気味な巨大影が、着実に距離を詰めてきているのが見えた。


「殺虫剤で済む相手じゃなさそうだな。シア、この島を覆っていた『盾』――障壁の制御装置コンソールはどこにある? 根本的なセキュリティを再起動させなきゃ、今夜の風呂を邪魔されるぞ」


「……障壁、ですか。かつては島全体を不可視の壁が覆っていたと伝承にありますが、その基部は数百年前の風化で砂に埋もれ、場所すら定かではありません」


「なら、俺が見つけ出してやるよ。ポッド、ビットたち! 島の周辺構造をスキャンしろ。魔力の導線が途切れている場所を探せ!」


 レンはシアを伴い、拠点の外周へと踏み出した。

 風化して崩れた石柱や、雑草が茂る古い祭壇。レンはそれらを一つ一つ、ギフト『修復・最適化』の解析眼で透視していく。


「見つけた。あそこのいびつな石積みの下だ。魔力のバイパスが完全に断線してやがる」


 レンが指差した先には、崩落した巨大な女神像の残骸があった。その下層に、島全体を保護するための『魔力障壁発生器』が埋もれていたのだ。

 レンはビットたちをホイスト(クレーン)代わりに使い、重い瓦礫を浮き上がらせた。


「さて、本番だ。シア、お前の杖を貸せ。一族のマスターキーを、俺の回路に同期リンクさせるぞ!」


「えっ!? ちょっと、また勝手に……! 私の杖を何だと思っているのですか!」


 抗議するシアから杖をひょいと借り受け、レンは露出した装置のコアに直接接続した。

 

「リペア&カスタム! 防衛プロトコル、全回路最適化! 中継地点ハブはビットたちに任せる。島全体を覆う必要はねえ、まずはこの『拠点』だけを完璧な絶対領域リゾートエリアに書き換えてやる!」


 レンの魔力が杖を通じて装置へと流し込まれる。

 

 ――ドォォォォン!!


 島全体が小さく震動し、拠点である神殿を囲むように、淡く青い光の膜がドーム状に展開された。

 それは万物を拒絶する盾であり、同時に、レンが作り上げた快適な空間を永遠に保つための、巨大な温室の完成でもあった。


「よし! これで蚊帳の外だ! どんなデカいのが来ようと、俺の許可なく一歩も入れさせねえぞ!」


 レンは腰に手を当て、完成したばかりの障壁を見上げて豪快に笑った。

 シアはその光の手さばきに圧倒され、ただ、美しく輝く防衛の盾を、涙ぐみながら見つめることしかできなかった。


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