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U

 熱っぽいなと思って、熱を測ったら38℃近くあった。

 もしかしたらいま流行りのウイルスかなと背筋が冷たくなって病院に連絡し、診てもらった。


「陽性ですね」


 医師は心なしか私と距離を開けながら言った。


「隔離生活ですか」

「そうなります。安静にしていてください」


 幸いなことに、私は一人暮らしで、両親が遺してくれた一軒家に住んでいる。自宅療養で問題ないそうだった。


 田舎暮らしで助かったと思う一方で、周りに隣家との間に田畑を挟む立地だからいざという時助けてもらえないのではという不安もあった。


 職場に連絡すると、上司は「ゆっくり寝て休めよ」と言ってくれた。「お前無しでもこっちは大丈夫だからな、はっはっは」と、きつい冗談も却って気が楽になった。


 熱っぽさは抜けず、喉が焼けるように痛い。咳も出る。ただの風邪だとは思っていなかったが、正直想像以上だった。


 隔離生活に入ってすぐ、自治体からダンボール箱3杯分の食料と飲料水が届いた。我が家には災害用の備蓄もあるし、ソーラーパネル付きのオール電化であるから、もう二週間は余裕で引きこもることができるように思われた。


 家にいてもすることが無いので、ぼんやりテレビやインターネットをしていたが、それにも飽きてしまい、家にある大量の蔵書を読み直すことにした。

 本を読むのは遅い方だ。一日に200ページが限界といったところ。両親が読書好きで、死ぬ間際まで本を買い集めていたから、実用書・小説と問わず読むものには事欠かない。


 隔離生活は、朝起きて朝食を取って本を読み、昼食をとって本を読み、夕食をとって片付けや入浴を済ませて少しして眠るという、ごく規則正しい生活スタイルで進んでいた。


 体調はすっかり良くなっていた。

 毎日「体調はいかがですか」と尋ねるメールが届くのでそれに答えていたが、このところは「問題無し」「発熱無し」「体調はすこぶる良好です」と返すばかりだった。


 何かがおかしいと気付いたのは、隔離生活に入って二週間経った頃だった。

 自治体や職場から連絡があるのかもと思っていたが一切そういったものが無く、不審に思ったのがきっかけだった。

 職場に電話してみたが、コール音ばかりで繋がる気配はない。


 テレビをつけてみたが、どのチャンネルも真っ暗で何も映らなかった。


 どういうことだ、と私は市街地へ車を走らせた。

 雲ひとつない快晴だった。ジリジリとした暑さがアスファルトから照り返していた。


 普段から交通量のない道を右へ左へ走り、少し大きな交差点へ出た。左手が市街地へ抜ける方だった。

 どうやら、市街地へ出る通りは渋滞しているようだった。普段は混むような道ではない。珍しいなと思いながら、最後尾の車につけた。

 渋滞は一向に進む気配がなかった。


「どうなってるんだ」


 私は苛立ちのままにクラクションを鳴らした。しかし、それでも動く気配がなかった。


 やあやって、おかしな点に気付いた。


「信号が……止まってる?」


 遥か遠くに見える信号機が、まるで停電した時のように真っ暗だった。

 車を飛び降りて前の車のフロントガラスを覗き込むと、運転席にも助手席にも、車内に誰一人乗っていなかった。エンジンはかかったままだった。


「なんなんだよ、これ」


 慌てて道路沿いに立っている場末のホテルに飛び込んだ。しかし誰もいない様子だった。非常灯の光が暗いロビーに光っていておどろおどろしかった。


 車に乗り込んだ私はバックギアに入れて、来た道を戻っていった。そして、道を変えて、山間の峠道へと向かった。

 峠道には、車の影ひとつ無かった。蛇行する道を、私は慎重に登っていった。

 頂上の小さなパーキングに到着した。ここは道の駅を兼ねていて、ドライバーに食事や休憩所を提供している。

 駐車場には何台か車が停まっていた。それだけでは無く、今にも駐車場から出ようとしていたのであろう車が2台ほど、白線から頭だけを半端に出した状態で停まっていた。

 まるで世界が写真に切り取られたようだった。写真として見ても不自然なのは、人の気配が全くしないことだった。


 私は車を停めて、展望デッキへ向かった。

 市街地が一望できるちょっとした絶景スポットだ。西の空に入道雲と、遠く東の空に煙が上がっているのが見えた。

 火事だ。私は望遠鏡を覗き込んだ。かなり大規模な火事であるようで、隣近所の家屋にも延焼していた。

 更に望遠鏡を動かしていくと、レンズに鉄道が映り込んだ。

 私は目を見張った。列車が、駅でもなんでもない鉄橋に車両の4割ほどを出した状態で停止していたからだった。

 悪い夢を見ているのだと思った。


 道の駅の建物に入っても、中に人の気配はなかった。客も従業員も、忽然と姿を消してしまっていた。フードコートに残された料理の数々と、散らばった箸やフォークが異常を改めて告げていた。ハエが何匹も更に張り付いていて、虫嫌いな私は気分が悪くなった。そして、料理にハエが湧くほど時間が経っていることに気付かされて愕然とした。


 携帯電話に入っている連絡先には片っ端から電話していた。しかしどれも繋がらなかった。中には他県の連中もいるし、海外に行っていると言っていたのもいたはずだが、全て不通だった。


 車に乗り込んだ私は、祈るような気持ちでアクセルを踏み込んだ。

 峠道を制限速度など気にせず降る。フロントガラスに雨粒。たちまち雨になった。ヘッドライトを点ける。

 ライトに対向車が現れてこないか、人影が現れてこないか、それだけを祈ってアクセルを踏み続けた。



U is for UNINHABITED

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