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21.王子様とお茶会




 再三のお茶会の誘いを断り続けていたけれど、お兄様とお話をしてようやく決心し、私はシレン様とお茶会に行くことにした。



 本日は王宮でのお茶会で、来てみれば招待客は私一人だった。



「いらっしゃいアヴィ。なんだか久しぶりだね、元気にしてたかい?」



 変わらぬ銀色の髪を靡かせ、爽やかな笑みを浮かべながらシレン様は出迎えてくれた。



「ご無沙汰しております、シレン様。元気にしておりました。シレン様はお変わりございませんか?」

「うん、変わりないよ。アヴィも変わらず綺麗だね」



 淑やかに笑い合い、勧められた席に腰を下ろした。

 テーブルの上には二人分にしては豪勢な菓子や軽食が並んでいる。



「それで、聞いたよ? マルク兄様と賭けをしたって」

「賭けではございません。約束事をしただけですわ」



 興味深げに見て来るシレン様の目から逃れるように、私は侍女が淹れたお茶を飲んだ。



「デビューの日までに、奴隷(カデナ)を消すとか?」

「違いますわ。どうにかする、です」

「どうにかって?」

「それは……」

「考えてないんだ?」



 黙り込んだ私に反して、シレン様はにこやかに笑われた。



「手助けしようか?」

「え?」

奴隷(カデナ)をどうにかしたいんだろう?」

「は、はい」

「じゃあ僕に任せてよ。将を射んと欲すれば先ず馬から射よ、ていうからね」



 そう得意げに言うや、シレン様は従者に何やら合図を出し、それを認めた従者が部屋を出て行った。


 次に扉が開いた時、そこには会いたくても会えなかった人が立っていた。



「アルクス!」

「アヴィ……」



 私は思うよりも早くはしたなくもアルの側に駆け寄った。

 けれど、アルは私を見てあからさまに顔を背けた。



「アルクス……?」

「シレンティウム殿下、本日はお招きいただきありがとうございます」

「うん、気楽にしていいよ」



 アルは私に目をくれず、シレン様の隣りの席に座ると、黙々とお菓子を食べ始めた。

 行き場のなくなった私はおずおずと元の席に戻りアルをそっと伺い見たが、やはりこちらを見ようとはしなかった。



「アルクス、よく来たね。今日は話があって呼んだんだ」

「ああ、分かっている。……だが、断る」

「は?」

「婚約を破棄して欲しいのだろう? 殿下がアヴロラと婚約するために」



 アルは何を言っているのだろう?


 私とシレン様は顔を見合わせた。



「アヴロラに何度も手紙を送ったのに返事がない。そんな時に殿下から会わせたい人がいると言われ来てみればアブロラがいた。いくら鈍い俺でもわかる」

「あの、アルクス……」

「だが、アヴィは俺の婚約者だ。譲るつもりはない」



 アルは怒気の孕んだ声で言い切ると、隣りに座るシレン様を冷たく睨み付けた。

 反して、シレン様は今にも吹き出しそうな顔を手で必死に隠している。



「クククッ……アルクスはアヴィを取られたくないんだ?」

「当たり前だ!」

「だってよ、アヴィ。良かったね」



 満面の笑みを湛えたシレン様に名を呼ばれ、私はどんな顔をしていいのか困った顔を俯いて隠した。


 アルが私の婚約者でいたいと言ってくれたことは嬉しい。嬉しいのに、心から喜べない自分がいる。

 私の胸の中には氷のように冷たい言葉が渦巻いていた。



 なら、あの女はなんなの?

 奴隷女のこと、どう思っているの?



「アルクス、落ち着いて聞いて欲しいけれど……僕とアヴィにそんなつもりはないよ」

「何!? ではなんでっ……」

「今日は二人にじっくり話をして欲しかったんだ。最近会ってないって聞いてね」



 真実を受け止め切れず目を白黒させたアルは、慌てて立ち上がって盛大にシレン様へ頭を下げた。



「す、すまないシレン! とんだ誤解をしていたようだ」

「構わないよ。僕も紛らわしい言い方をしちゃったし」



 シレン様は未だ収まらぬ笑いを隠すことなく浮かべながら、優雅にお茶を飲んだ。

 すると今度は、向かい側に座る私へとアルは向き直り、また深く頭を下げた。



「……アヴロラにも悪いことをした。すまない」

「いいえ、頭をお上げくださいな。文の返事をしなかった私が悪いのです」



 そう、私は返事をしなかった。


 なぜならば、拗ねていたから。

 素っ気ない内容の手紙しか寄越さないアルに、私の家には訪れてくれないアルに、私の知らないところで奴隷(カデナ)と仲良くしているだろうアルに、拗ねていた。


 それに、返事をするのも怖かった。

 まさか本当の事は手紙に書けない。

 奴隷女に来るなと言われたなどと書いたら、私が奴隷(カデナ)の言いなりになっているようで癪だった。

 仮にありのまま真実を書いたら、アルがなんと思うのかが怖かった。


 アルがもし奴隷女の味方に付いたらと、考えるだけで泣きそうになる。



「──アヴロラ、君に見せたいものがあるんだ。我が家へ来てくれるか?」



 アルはいつもの不機嫌そうな、けれど真っ直ぐな眼差しで私に尋ねた。


 その問いに、私は少なからず嫌な予感がした。

 以前も同じような事を言われて、そして嫌な思いをしたのは記憶に新しい。



 けれど結局私は、アルの誘いを断れないのだ。



「ええ、楽しみにしているわ。アルクス」



 結局私はまた、奴隷女について言及できなかった。








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『魅了の魔女は婚活中』

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