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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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5-1 波に揺られて

ザザーン……

ザザーン……。


どこまでも広がる青い空。

打ち寄せてくる白い波。

そして、優しく頬を撫でていく潮風――


そんな

ロマンチックな旅情に包まれて……。


「ウップ……。き、気持ち悪い……」


私はすっかり船酔いしてしまい、

甲板の上で無様にうずくまっていた。


「おい……大丈夫かよ」


すぐ傍では、

キースが心底呆れたような顔で

私を見下ろしている。


「キース……。

ど、どうしてあなたはそんなに

平気でいられるのよ……」


込み上げてくる強烈な吐き気を

無理にこらえながら、

恨めしげにキースを見上げる。


「それは、俺が船旅に慣れているからな」


キースはフンと胸をそらせ、

ここぞとばかりに偉そうに胸を張ってみせた。


「なによそれ……。

船旅って……数をこなせば、

誰でも慣れるものなの……?

うっ、うえっ!」


もう、我慢の限界だった。

私は甲板を這うようにして、

手すりのあるデッキへと向かい……。


「うえええええーっ!」


青い海に向かって、

とうとうすべてをぶちまけてしまった――



****



「はぁ~……。

最悪、まだ気持ち悪いわ……」


それからどれくらい経っただろう。


私は甲板の上に日傘をさして、

完全にへたり込んでいた。


「うぅ……。

こんな日当たりの良い場所にいたら、

お肌が日焼けしてしまうわ……」


これでも美肌美人なのに。


「あのなぁ……

そんなに日焼けを気にするくらいなら、

こんなところにいないで、

大人しく船内に入っていたらどうだ?」


キースがやれやれと肩をすくめる。


「キース……。

あなた、本当に何も分かっていないのね」


じろりと恨めしい目をキースに向ける。


「何のことだ?」


「船内にいたら……万一、

また気分が悪くなって吐きたくなっても。

すぐに海に駆け込めないじゃない……。

うっぷ」


もはやキースと言い返すだけの

気力も残っていない。


「おいおい、海を汚すなよな。

ったく……今からそんなに酔って

どうするんだ?

まだここは内洋なんだぞ?

陸に沿って、大型船が乗り入れる港を

目指しているだけだって言うのに。

こんな調子じゃ、

本番の外洋に出たら本当に大変だぞ」


「え……?」


キースの不穏な言葉に

ただでさえ悪い気分が、

さらに最悪なものへと落ち込んでいく。


「次の港町から東へ向かう船は、

一度乗ったら最低五日は海の上だ。

天気が良ければまだいいが、

これが嵐にでもなったら最悪だぞ?

下手したら海に投げ出されて

しまうかもしれない」


「……嘘よね?  嘘だと言って?」


「嘘なんか言ってどうする。

俺は事実しか言わないからな」


無情にも私の言葉をばっさり切り捨てる。


「そ、そんなっ……

ウップ」


絶望のあまり、

再び強烈な吐き気が込み上げてくる。


「おい、大丈夫かよ?」


私が再び海に向かって身を乗り出している間、

キースは口では文句を言いながらも、

私の背中をさすってくれていた。


少し気分が落ち着いたところで、

私は恨めしい視線をキースに向ける。


「ねぇ、キース」


「 何だ?」


「気のせいかしら……。

なんだかあなた、

ちょっと嬉しそうに見えるのだけど……?」


「分かるか? そりゃあ嬉しいだろ。

いつもいつもお前のおかしな錬金術に

巻き込まれて、

散々な目に遭わされているからな。

だから今の情けないサラを見ていると、

ちょっとした優越感に浸れるのさ」


「はぁ!?  なんですって……!!  うぅ……っ」


怒鳴りたいのに、気力が湧かない。


「しっかりしろよ。

まったく……お前がそんなに

船に弱いとは思わなかったぜ」


「し、仕方ないでしょ……! 

船旅なんて

人生で初めてなんだから……っ」


キースの身体に完全に寄りかかりながら、

なんとか返事をした。


「そういえば……サラ。

お前が前に作った『錬金薬』だっけ?

あれ、まだ残ってないのか?」


「ううん……。

まだ、鞄の中に残ってるはずよ……」


「そいつは、

船酔いには効かないのか?」


「……え?

キース、今なんて言ったの……?」


「だから、錬金薬だよ。

あるなら飲んでみたらどうだ?

――激マズだけどな」


意地悪そうにニヤニヤするキース。

けれど私の頭の中に

一筋の光が差した。


「そうだわ……!

錬金薬、それを飲めばいいのよ……!」


「おい……?」


船酔いでプルプルと手元を震わせながら、

ショルダーバッグを開け、

中にあった錬金薬入りの小瓶を

取り出した。


ガラス瓶の中には、

あの黒い丸薬がまだ半分ほど残っている。


「おいおい……。

そんなに体調が悪いのに、

まさか本当にそれを飲むつもりか?

もうすぐ港に着くんだから、

それまで我慢していた方が

いいんじゃないのか……?」


さっきまでの余裕はどこへやら、

キースがなぜか急にオロオロし始めた。


「……何言ってるのよ。

このままじゃ私……船酔いで

死んでしまうわ……」


「はぁ!? 

船酔いじゃまず死ぬことはないだろう!

むしろその薬を飲んだ方が、

命の危険があるぞ!

って、おい!

言ってる傍から飲むな――!!」


口の中に丸薬を放り込むと同時に、

青い空にキースの絶叫が響き渡った――

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