4-6 南よ! 東だ!!
「サラ、この港町から別の大きな港町へ
移動するぞ。
目指すは東の大陸だ」
私たちは港のすぐそばにある
夜の酒場にいた。
お互いにフードを目深にかぶり、
素性を隠している。
そんな怪しげな二人の前には、
大皿に乗った美味しそうな料理が
テーブルいっぱいに並べられていた。
「え? どうして東へ行くの?」
私はフライフィッシュに
ギュッとレモンを絞りながら尋ねた。
「……東の大陸に行けば、
何とかなるからだ」
キースはシーフードパスタを
フォークでクルクルと巻き付けると、
口に放り込む。
「……どうも要領がつかめないわね。
何とかなると言われて
『あぁそうですか』と、
この私が納得できるとでも思っているの?」
たっぷりレモン汁をかけた
フライフィッシュを口に入れる。
うん、おいし~!!
「年がら年中脳内お花畑なんだから、
細かいことを気にせず、納得しろ」
無茶苦茶なことを言ってくれるキース。
「いやよ。ちゃんと納得できる理由を
説明してくれないと。
大体、私は南に行きたいんだから」
「? 何で南に行きたいんだよ。
何か、あてでもあるのか?」
キースが首を傾げ、
ボイルしたエビをフォークに刺して口に運ぶ。
「ええ。あてならあるわ」
「そうなのか? 一体どんなあてだ?」
キースは急に真剣な表情になって尋ねてきた。
「それはね……」
「それは?」
ゴクリ、とキースが喉を鳴らす。
「南国フルーツよ!」
「……は?」
間の抜けた声を出すキース。
「いいこと? キース。
この世界にはまだ私たちが
出会ったことのない食べ物が
ごまんとあるのよ?
それらを口にせずに人生を終えるなんて、
こんな空しいことはないわ。
特にこのフルーツ!」
テーブルの隅に置かれたフルーツ皿に
手を伸ばした。
そこにはカラフルなフルーツが
山盛りに乗っている。
「見てごらんなさい、キース。
この色とりどりの美しいフルーツを……
でも南国には、
さらに上質なフルーツが溢れているのよ。
それらを食せずに、
どうするというの!?」
そして宝石のように美しい葡萄を
一粒もいで口に入れた。
何て瑞々しいのかしら……。
ふと前を見ると、
目の前のキースは何故か顔を真っ赤にして、
フォークを握りしめたまま身体を
プルプルと震わせている。
「どうしたの? キース」
「お、お前なぁ……ふざけるなよ!
この非常時に!」
「ふざけてないわよ!
私はねぇ、美味しい食事を
口にすればするほど力が湧いてくるのよ!
……多分」
「いいか、とにかく南に行くのは却下だ。
俺たちは東を目指す、
これは絶対だ」
キースは憮然とした表情で、
残りのパスタを一気に完食する。
私はキースの食事が終わるのを待って、
改めて真っ直ぐ彼を見つめて尋ねた。
「そこまで言うなら、
ちゃんと理由を説明してよ。
そうじゃないと、私は南にしか行かないから」
「はぁ……分かったよ」
キースは観念したように
大きなため息をつくと、声を潜めた。
「東の大陸は……俺の国がある。
そしてその大陸には、
皇帝が住んでいるんだ」
「皇帝? あの、例の
『錬金術を操ることが出来る』という?」
「あぁ、そうだ。そして、俺の家の役割は……
国境と皇帝を守ること、なんだ」
「え? 守る?」
それって……どういうこと?
「俺の父親……辺境伯なんだ」
キースはボソリと、
とんでもない衝撃の事実を口にした――




