4-2 牙をむく日常
「サラ姫、お久しぶりです」
青い髪の男性――
ブルーさんが、お城にいた頃と
変わらない爽やかな笑顔で
私に話しかけてきた。
「随分探しましたよ。
お元気そうで何よりです」
その隣では灰色の髪の男性――
グレイさんも、にこやかに話しかけてくる。
「ど、どうして……?」
尋ねる私の声が、情けないほど
震えてしまう。
二人とも、お城の広い庭園で
いつも笑顔で私に挨拶してくれていた。
黙々と薔薇の手入れをこなす、
穏やかな庭師だったはず。
なのに、何故バルディア王国の
正規騎士の姿をしているのだろう?
その時。
風に揺れる彼らのマントの下、
肩元で鈍く光る意匠が目に飛び込んできた。
「!」
それは一般の騎士には決して許されない、
お父様直属の最高位の証である
肩章だった。
「ま、まさか……二人は騎士……だったの?」
けれど二人とも私の質問には答えない。
「サラ姫、城へ戻りましょう。
陛下がお待ちです」
グレイさんが一歩、馬を近づけてきた。
その瞬間、
私の脳裏に婚約破棄を申し出たときの
お父様の言葉が鮮明に蘇る。
『良いか、サラ。お前の役目はアレスと結婚し、
子を成すことだ。
最低でも5人は産んでもらわねば困る。
既にアレスには、お前との婚約を命じた際、
秘蔵の『魔導精力剤』も渡してある。
ついでに夜這いをけしかけといた』
「イ、イヤよ……!
私は絶対帰らないから!!」
今の私には、
アレス様が何を考えているのか
さっぱり分からない。
私の命を狙っているのか、
それとも何者かに操られているのか……。
「だって……戻ればアレス様と
結婚させられてしまうもの!!」
「「!!」」
私の叫びに、
ブルーさんとグレイさんの顔に
初めて明確な困惑の表情が浮かんだ。
「サラ姫、確か姫はアレスに……」
グレイさんが困惑混じりに馬を一歩進めた
その時。
「サラッ! 下がれっ!」
突然、背後から剣を構えた
キースが飛び出し、
馬上のグレイさんに向けて鋭く切りかかった。
「キース! やめて!」
あの二人がお父様から直接認められた
最高位の騎士となれば、
その実力は相当なものだ。
いくら新調したミスリル装備があるとはいえ、
キースだってただでは済まないはず!
――キィンッ!!!
林の中に、甲高くて重い金属音が響き渡る。
「な、何……!?」
キースの顔に驚愕が浮かんだ。
グレイさんは剣を抜くことすらしていなかった。
ただ、鎧をまとったその腕だけで、
キースの渾身の一撃を正面から
完璧に抑え込んだのだ。
「馬鹿な! ミスリルソードなのに、
傷一つ付かない……!?」
キースが慌てて後ろへと飛びのく。
やはりそうだ、あの白銀の鎧。
優秀なララお姉さまの強力な『保護魔法』が、
何重にも隙間なくかけられているのだ。
生半可な物理攻撃など、
完全に無効化されてしまう。
「お前がサラ王女を誘惑した不届きな騎士か?」
グレイさんが、
今までお城では見たこともないような
凍りつくほど冷たい目で、キースを見下ろした――




