4-1 青空の下に、懐かしい二人
ガラガラガラガラ……。
昼下がりののどかな平野を、
一台の荷馬車が走っている。
そして、その御者台で手綱を握るは
私――サラ・バルディア。
荷台にいるのは、
私が錬金したミスリル製の
ハーフプレートを装備したキースと
山積みにされた備蓄食料だ。
「イェーイ!
馬を走らせるって最高!」
澄み渡る青空の下、
私はすっかり上機嫌だった。
だが、そんな私に対して
なぜかキースは最初からずっと
不機嫌そうな顔をしている。
「……ったく、王女が荷馬車を
走らせるって前代未聞だぜ。
……何かあったらどうするんだよ」
「なーに? 何か言った!?」
手綱を握りしめたまま振り返る私に、
キースはフイッとわざとらしく
よそ見をしながら、ぶっきらぼうに返事をする。
「別に! 何も!」
「ふ~ん?」
おかしなキースだ。
さっき倉庫でミスリルのプレートと剣を
錬金してあげたときは、
あんなにも上機嫌だったのに。
「でも、風を切って走れるなんて最高ね~」
風に長い髪をたなびかせながら、
眩しく、青い空を見上げた。
なぜ、私がこんなにも
はしゃいでいるかというと、
それには深いわけがある。
実は私は、王女でありながら
馬術が出来なかったのだ。
優秀なララお姉さまは馬術も得意だった。
いつも凛々しく愛馬にまたがり、
先陣を切って騎士たちを引き連れて
魔物退治に赴いていた。
そして……その隣には
いつもアレス様の姿が。
私は馬に乗れなかったけれど、
お姉さまや騎士たちの役に立ちたくて
何度も魔物退治に行かせてくださいと
お願いしてきた。
けれど、お父様の答えはいつも同じ。
『怪我をしたらどうするのだ?
お前は大切な娘なのだから、
そのような危険な真似をする必要は一切ない』
そう言って
いつも止められていたのだ。
「……お姉さまだって、
同じ娘なのに……」
思わずポツリと疑問が口を突いて出る。
「あ? 何か言ったか?」
キースが荷台から怪訝そうに尋ねてきた。
「ううん、何でもないわ!」
慌てて首を振って前を向く。
その時、前方に大きく広がる緑豊かな
森が見えてきた。
そうだ!
「ねぇキース!」
私は再び荷台に向かって声をかける。
「あ? 何だよ」
新調したミスリルソードを愛おしそうに
お手入れしていたキースが、
ひょいと顔を上げた。
「あの森まで行ったら、休憩しましょう!
そこで軽く食事にしましょう。
パンに厚切りベーコンと
スライスしたアオカビチーズを
たっぷり挟んだサンドイッチを頂くのよ!」
「はぁ!? それのどこが軽い食事だよ!
十分重いじゃないか!」
「よーし、少し急ぐわよ!」
キースの至極真っ当なツッコミを無視し、
私はパチンと手綱を振って
馬の歩みを速めた――
****
やがて荷馬車は平野を抜け、
涼しい林の中へと分け入っていく。
「う~ん、どこらへんで馬を休めようかしら」
木漏れ日がきらきらと差し込む中、
のんびりと馬を進めていたその時。
――ガサガサガサッ!!!
突然、前方の木々が激しく揺れた。
「……え?」
思わずグイッと馬の手綱を引いた。
するとガタガタと大きな音を立てて、
荷馬車がその場に急停車する。
木漏れ日の差し込む静かな林の中。
鳥のさえずりがピタリと止み、
ただ事ではない緊迫した空気が張り詰める。
「何だ……?」
キースも異変を感じ取ったのか、剣を構えて
身を乗り出す。
ガサガサッ
再び草木をかき分ける音がして、
目の前に馬に跨る二人の男が姿を現す。
「……うそ……」
手から手綱が滑り落ちそうになった。
そこに立っていたのは
祖国――バルディア王国の正規騎士。
しかも彼らは私のよく知る人物。
城の庭で、いつも笑顔で私に挨拶してくれていた
庭師――グレイとブルー。
その二人だった――




