3-19 変換の向こう側
「ま、眩しいー!」
まるで洪水のように
まばゆい光の中でキースの悲鳴が
響き渡る。
一方、ドラム缶に手を当てている私は
手のひらから伝わる魔力に確かな手応えを
感じ取っていた。
「フフフ……来てる!
来てるわ……!」
「何が来てるんだよー!!
敵か!? 敵襲なのかー!?」
光の渦の中で、
キースは完全にパニックに陥っている。
ゴォゴォと地鳴りのような音が
倉庫に響き、
やがて溢れていた光が一箇所へと
収束し始めた。
――シュウウウウウ……。
ドラム缶の中に光が激しく
吸い込まれていく。
それと同時に、金属が擦れ合い
軋む鈍い音が鳴り響き……
キースを包むドラム缶が、
徐々にその形状を変えていく。
そして――
「うん、初めてにしては中々上出来ね」
キースを見て、満足げに深く頷く。
当のキースはというと、
未だに両手でしっかりと自分の顔を
覆い隠したままだ。
多分、以前に私が放ったあの
『閃光弾』で眩しい思い(?)をし
たからだろう。
けれど、大の男が顔を隠して縮こまっている
その姿は、
まるで恥じらう乙女のようにも見える。
「キース、いつまでそんな恰好しているの?
目を開けてごらんなさいよ」
「くっそ~……」
キースは両手をそろそろと降ろし、
恐る恐る目を開けて――
「ああぁ! こ、これは!」
自分の体を見下ろした瞬間、
倉庫に彼の歓喜の声が響き渡った。
「どう? 気に入ってくれたかしら?」
今のキースの姿は、
ドラム缶の面影など微塵もない。
鈍い白銀色に美しく輝くハーフプレートに、
足元をがっちりと守るグリーブという
出で立ちだ。
「す、すごい……これも錬金術か?」
キースは真新しい防具をぺたぺた触りながら、
信じられないといった様子で目を輝かせる。
「ええ、そうよ。
この際だから無駄な部分は省いて、
軽さと動きやすさを重視したの。
だけどそれだけじゃないわ。
いい? 聞いて驚きなさい!
その防具はミスリル製なのよ!」
ビシッとキースを指さした。
「な、何だって!?
あ、あのミスリル製か!?」
普段目つきの悪いキースが、
これでもかと目を見開く。
「そのとおりよ!
キース、あなたは運が良かったわ。
一番真新しいドラム缶を選んだのだから。
もし私があの錆だらけの小汚い
ドラム缶を選んでいたら、
ミスリル製の防具を錬金することは
不可能だったわ。
せいぜい鋼の鎧程度かしら」
ぺらぺらと説明するも、
肝心のキースは聞いていない。
「すっげ~これがミスリルか……
こんなに軽いのか……」
完全に自分の世界に入り込み、
真新しい防具をうっとりと撫で回している。
「それだけじゃないわよ!
キース!!」
そこで私は大きな声で名を呼んだ。
「うわぁ!! 今度は何だよ!
びっくりしたじゃないか!」
キースは余程驚いたのか、
大袈裟に胸を押さえている。
「フフン、驚いたようね。
でもまだまだそんなものじゃすまないわよ。
腰に手を当てて見なさい!」
「腰……? あぁっ!! こ、これは!」
言われた通りに腰に手を当てたキースが、
さらに一段と大きな声を上げる。
「剣だ!! 剣が装備されてる!」
「そうよ、さぁ! その剣を抜きなさい!
キース!」
まるで舞台劇のような台詞を言い放つ私。
キースも完全にその場のノリに当てられたのだろう。
コクリと力強く頷くと、
勢いよく鞘から剣をカチャリと引き抜いた。
ヒュッ!
剣が心地よい風切り音を立てて空を切り、
切っ先がキラリと鋭く光る。
牧草がたっぷりと積まれ、
「モォ~」と牛の声が聞こえてくる
倉庫の中で、
その美しい剣を天井へと掲げるキース。
「……軽い。何て軽さなんだ……」
「軽いのは当然よ、
その剣だってミスリル製なのよ!」
私はビシッと、剣を指さす。
「え!? あの巨大フォークまで錬金したのか!?
しかもミスリルに!?」
「そうよ。感謝しなさい」
私が得意げに胸を張った、その時。
「サラッ! お前って最高だ!」
満面の笑みを浮かべたキースに、
グイッと力強く肩を引き寄せられた。
「キャアッ!?」
思わず小さな悲鳴が漏れる。
けれど、キースは私の動揺など
気にも留めない様子だ。
「外で素振りしてくる!」
「え? ちょ、ちょっと!?」
しかし、キースは私の動揺をよそに
「ヒャッホー!」
と野生児のような雄たけびを上げて、
そのまま倉庫の外へと飛び出して行った。
――バタン!!
扉が閉まり、静まり返る倉庫。
一方、一人取り残された私は
自分の胸の鼓動がうるさいほどに
高鳴っていた。
「な、な、何よ……! 突然……!
しかも初めて私のことを名前で
よ、呼ぶなんて……!」
熱くなる顔を押さえながら、
必死に頭を振る。
「ち、違うわ。
この胸のドキドキは、
突然抱き寄せられて驚いたからに
決まってるんだから!
大体私が好きな人は……」
アレス様の顔を思い浮かべようとした。
けれど何故か、
霧がかかったように全く浮かんでこない。
「……浮かんでこないのは当然だわ。
だって私はアレス様に
命を狙われたのだから……
それより早く食料を仕入れに行かなくちゃ!」
無理やり自分にそう言い聞かせ、
熱い頬を叩くと、
私もキースの後を追って
外へと走り出した――




