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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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3-18  モォ~……騎士、ドラム缶に沈む

「モォ~~……」


青空の下、

私とキースは牧場にやってきていた。


目の前には年季の入った牛舎。


そして見渡す限りの緑の牧草地帯が

広がり、牛さんたちが美味しそうに

むしゃむしゃと草を食んでいる。


「いい眺めね……。

青空と緑の牧草地帯、絵になるわ」


私は日傘を優雅にさしながら、

のどかな光景をじっと見つめる。


「……おい」


隣に立つキースが、

地を這うような不機嫌な声を

かけてきた。


「なぁに?」


「なぁにじゃない!

何だって牧場に連れてきてるんだよ!

鎧と剣を入手するんじゃなかったのか!?

まさかお前、

アオカビチーズを仕入れるためだけに

来たのか!?」


キースは眉間にこれでもかと

青筋を立てて怒鳴ってくる。


「はぁ?

そんなわけないじゃない。

ばっかね~、キースは」


「おい、誰が馬鹿だ。誰が」


そこへ麦わら帽子をかぶり、

立派なチョビ髭を生やした牧場の

オーナーが駆け寄ってきた。


「やぁ、待たせたな。

今、子牛にミルクを与えていたところで

手が離せなかったんだよ」


「いいえ、お忙しいところ

お邪魔してすみません。

ほら、キースも挨拶しなさいよ」


隣に立つキースの脇腹を肘で

思いきり小突くと、

不満そうにボソリと挨拶をした。


「ど、どうも……」


「それで、お嬢さん方の

用件はなんだったかな?」


「はい。

ドラム缶と、牧草を集めるための

巨大なフォークを譲って

いただきたいのです」


「はぁ!?

何だってそんなものがいるんだよ!」


キースがすかさず文句を挟んでくるが、

ここは完全無視だ。


「まぁ、別に譲ってやってもいいが……。

こちらも商売道具だからなぁ、

ただで譲るわけには……」


おじさんがチラチラとこちらを

窺いながら言葉を濁す。


「もちろん、タダとは言いません。

お代はこんなものでいかがでしょうか?」


その辺の石ころで錬金した、

金色に輝く小さな鉱石をちらつかせる。


「ばっ! お、お前……!

っつ、痛って―!!」


キースが叫んだ。

私が思い切り彼の足を踏みつけたからだ。


「おお! こ、これは……!」


案の定、おじさんの目の色が変わる。


「どうでしょう?

これは正真正銘、

純度100パーセントの金鉱石です」


「ぶ!」


吹き出しそうになったのだろう。

キースは慌てて自分の口を両手で塞いだ。


「じゅ、純度100パーセント……!

素晴らしい!

これだけあれば、二年間は豪遊……

い、いや!

牧場経営がガッポガッポ楽になる!」


おじさんの顔に、ちょっぴり

(というか、かなり)悪そうな笑みが浮かぶ。


「どうでしょう? 譲っていただけますか?」


「あぁ! 勿論だとも! 

では一緒に牛舎の裏へ行こう!」


「はい!」


私は満面の笑顔でおじさんの後に

ついていく。


キースは隠そうともしない不満面のまま

のしのしとついて来た――


****


「さぁ、キース!

どのドラム缶がいい!?」


牛舎の裏手にある巨大な倉庫。

その目の前には、

五つほどのドラム缶が並べられていた。


キースは牧草をかき集める

巨大フォークを手に持たされたまま、

唖然とした表情でドラム缶を見つめている。


「……おい、

一体目の前にある、これは何だ?」


「はぁ? ドラム缶に決まってるでしょう?」


「あのなぁ!

そんなのは見れば分かるんだよ!

俺が聞いてるのは、何故ドラム缶を

選ばなきゃならないかってことだ!

大体、俺が持ってるこれはなんだ?

鍬か!?」


「キース!」


うるさいキースを一喝して黙らせる。


「な、何だよ……」


「いいからドラム缶を選びなさい。

これは命令よ」


「はぁ!? 何でおれが……!」


「だったら私が勝手に選ぶわよ。

そうねぇ、あのドラム缶がいいかしら?」


私が指さしたのは、

一番小汚いドラム缶だ。


ただ汚いだけじゃない。


あちこちがベコベコに凹み、

真っ赤に錆びついている。


「くっそ~……

何が何だかわからないが、

一番綺麗なのが良いに決まってるだろう!?

よし! あれだ!」


案の定、乗せられたキース。

一番ピカピカなドラム缶を指さした。


「うん、なかなかいい塩梅あんばいね。

ならキース、その中に入りなさい」


「何!? 何で俺がドラム缶に入らないと……!」


「めんどくさいわね~。

いいから入りなさいよ。

それとも、また私の錬金術をぶっ放しましょうか?」


サラリと笑顔で薬瓶を取り出す私。


「ヒッ!」


キースは肩をビクリと跳ねさせた。

湖に叩き落とされたトラウマが蘇ったらしい。


足元に置いてあった脚立を引っ掴んで

ドラム缶の前に立つと、

露骨に嫌そうな表情のまま

ドラム缶の中へと入った。


「ど、どうだ!! 入ったぞ! 

文句ねぇだろ!」


ドラム缶から顔だけをひょこっと

覗かせて喚くキース。


フフ、最高にシュールでいい眺めだわ。


「それじゃ、いくわね」


私はキースの入っているドラム缶に

そっと手を触れると、静かに目を閉じた。


「――変換!!」


ピカァァァ――ッ!!


途端に、直視できないほどの

凄まじく眩い光がドラム缶を包み込む。


「うわー!! 眩しいっ!!

目が、目がァーッ!!」


毒舌騎士の情けない悲鳴が、

静かな倉庫の中に響き渡った――

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