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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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3-16 等身大の朝と、乙女のプライド

チュンチュン……。


小鳥の爽やかなさえずりと、

カーテンの隙間から差し込む

眩しい太陽の光が

私の顔を直撃した。


「う、う~ん……まぶし……」


目を閉じたまま身体を動かそうと

したけれど、どういうわけか

妙に体が重い。


まるで、何か大きくて頑丈な

丸太のようなどっしりとしたものが、

私の上にのしかかっているように感じる。


「な、何……?」


眠気をこすり落とそうとして、

自分が『何者かの逞しい腕』で

がっしりとホールドされていることに

気がついた。


「え……?」


一気に脳内から眠気が吹き飛び、

私は目を見開いた。


視線の先、私のすぐ目の前にあったのは――

美しく整った瞼を閉じ、

すやすやと眠るキースの顔だった。


しかもあろうことか、

私の身体を背後から羽交い絞めにしている。


「キ……キャアアアア――ッ!?」


「な、なんだ!? 敵の襲撃か!?」


私の悲鳴に跳び起きたキースの目が開き、

至近距離でバチッと視線がぶつかった。


「……へ?」


「こ、この……っ!」


「え? い、いや! おい、待て!!」


ガバッとベッドから起き上がり、

両手を振って全力で後退りするキース。


「お、落ち着け! そう、これは誤解だ!

誤解なんだよ!!」


「な、なにが誤解よ……!」


私は怒りに震えながら身を起こすと、

右手を思い切り振り上げた。


ビュッ! 


――パァンッ!!


「っ痛てーっ!!」


早朝の静かな寝室に、

キースの哀れな悲鳴が響きわたった――



****


「だから、これは誤解だって

何度も言ってるだろうが!?」


「はぁ!? 何が誤解よ!!

寝ている乙女のベッドに忍び込んで

抱きしめるなんて、邪な男のすることよ!

この痴漢! 変態!」


「誰が痴漢だ! 変態だと!? 

大体、お前が俺をベッドに入れて

眠らせたんだろうが!!」


キースは心外だとでも言わんばかりに、

大きな拳を握りしめて猛反論してくる。


「ええ、確かにベッドに入れて眠らせたわよ!

でも、それがどうして私を抱きしめて

寝ていい理由になるのよ!!」


「だから、それには訳があるんだ!

ちゃんと聞け!」


私たちは未だに、

二人で同じベッドの上に正座したまま

激しい口論を続けている。


「へ~え? それじゃあ一体どんな訳が

あるって言うのよ。

言ってごらんなさい!」


問い詰めるとキースはそれまでの勢いを

一瞬潜め、真顔になった。


「あのなぁ、大体! 

あの豆粒みたいな身体で、

まともに普通のベッドに寝られると

思ってるのか!? 

お前が気持ちよさそうに眠った後、

俺がどれだけ大変だったか

分かってんのかよ!」


「大変? 何がよ?」


「お前が寝返りを打つたびに

ピローの上から滑り落ちるわ、

キルトの重みで窒息しそうになるわで

命の危機だったんだよ! 

だから何とか必死で這い上がってきて、

もう滑り落ちることがないように、

お前の服の袖をしっかり掴んで寝たんだ。

そ、そしたら今朝、

なぜかこんなことになってただけだ!」


キースはフンスと鼻を鳴らし、

はち切れんばかりのシャツの胸を

ばしんと叩く。


「大体お前は、まず引っぱたく前に

俺が元の大きさに戻ったことを

喜ぶのが先だろう!?」


「あ、そう言えば……キース、

あなた……」


「あ、あぁ。そうだ……」


そこでようやく、

私とキースは同時に息を飲んだ。


「「元に戻ってない!!」」


綺麗にハモった声が部屋に響く。


「どういうことだ? 

やはりひっぱたかれたことが

原因じゃなかったのか!? 

何で今度は元に戻ってないんだ?」


キースは余程混乱しているのか、

自分の大きな手を何度も見つめ、

今の姿が偽物ではないかと疑っているようだ。


「そうねぇ。

なら、試しにもう一発ひっぱたいて

確認してあげようかしら?」


私はにっこり微笑んで、

再び右手をしなやかに振り上げる。


「お、おい!? 

馬鹿な真似はやめろ!」


「あら? そう? 

でも私は今、すごーくキースを

ひっぱたきたい気持ちで一杯なんだけどね~!」


「何でだよ!?」


「それはねぇ……! 

いつまでも人のベッドの上に

居座っているからよ!! 

元に戻ったなら、さっさと自分の部屋に

戻りなさいよ!」


そばにあったふかふかのピローを

武器代わりにガシッと掴むと、

キースの顔が引きつる。


「ば、ばか!! やめろ! 

出て行けばいいんだろう、出て行けば!」


キースは枕元に転がっていたミニチュアの鎧を

大慌てで掴むと、ベッドから飛び降りて

バタバタと私の部屋から逃げ出していった。


――バンッ!!


勢いよく扉が閉まった音を確認して、

私はようやく掲げていたピローを

ベッドに下ろした。


「……ふぅ……」


誰もいなくなった部屋で

大きなため息をつくと、

途端に顔が火がつくように熱くなる。


実は、さっきまで照れくささを隠すために

怒ったフリをしてずっと我慢していたのだ。


「な、何さ……人が眠っているところを

勝手に……だ、抱きしめるなんて……」


さっきまで私を包んでいた、

キースの逞しくて温かい腕の感触を

思い出してしまい、

私は首をブンブンと横に振った。


「あ、あんなのは事故よ、事故! 

美味しい朝食を食べて、

綺麗さっぱり忘れましょ!」


ベッドから飛び降りると、

自分の寝間着の胸元にそっと手を触れた。


「変換!」


眩い光が身体を包み、

一瞬にして寝間着が村娘風の外出着へと変わる。


モスグリーンのベストに、ふんわりとしたスカート。


「うん、今日も素敵に決まったわね」


満足して宿屋の姿見の前に立った、その時。


窓枠に、一羽の鮮やかな『ピンクの鳥』が止まり、

こちらの様子をじっと見つめていることに

気がついた。


「え?」


驚いて振り返ったけれど、

そこには鳥の姿はなかった。


「……変ね? 気のせいかしら?」


けれど、今は鳥のことよりもキースだ。


部屋に追い返しはしたものの、

扉を閉めた衝撃で、またお豆騎士に戻っていたら

目も当てられない。


私は急いで部屋の扉を開け、

隣にあるキースの部屋へと向かった――

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