3-14 お豆騎士の受難と、騒がしい夜
「美味しかった~」
クッキーをきれいに食べ終え、
大満足の私。
テーブルの上のキースが声を
かけてきた。
「それじゃ、俺はもう寝るからな。
俺の部屋へ連れてってくれよ」
「あら、だめよ」
即答すると、キースが間の抜けた顔になる。
「は? 何でだめなんだよ。
こんなちっさな身体で、隣の部屋に
行けると思ってるのか?
扉だって開けられないだろうが!」
テーブルの上で、小さな手足をバタつかせて
喚くキース。
私はフッと微笑んだ。
「そうじゃないわ。今夜は私と同じ部屋で
寝るのよ」
「な、なんだと!?
お前、正気で言ってるのかよ!」
地団駄を踏むキースに、
私はジト目を向ける。
「そっちこそ正気で言ってるの?
私に何て言ったか覚えてないの?
『こんな小さな身体じゃ、
俺は完全に無力だ』って
自分で言ったでしょう?」
「う!」
「万一、隣の部屋で一人で寝ていて
ネズミが現れたら?
あっという間に咥えられて、
巣穴に連れて行かれちゃうかも
しれないでしょ」
「ううっ!」
ネズミの襲撃をリアルに想像したのか、
キースが青ざめた顔で胸を押さえる。
「というわけで、元の身体に戻るまでは
一緒の部屋で寝るわよ。
これはキースの身の安全を守るための、
至極真っ当な手段なんだから」
「……わ、分かった……」
「そう。なら話が早いわ。
とりあえず今夜はもう寝ましょう。
着替えをしなくちゃね」
私が自分の服に手をかけると、
キースがまたしても血相を変えた。
「お、おい!?
まさかこんなところで着替えるつもりか!?
せめて他の部屋へ……!」
「――変換!」
私の服がピカッと眩い光を放った。
キースは完全に唖然とした顔で
固まっている。
「……え?」
「あら、どうしたの? キース」
寝心地の良い寝間着姿になった私が
首を傾げると、
キースは震えながら私を指さした。
「な、な、なんだよ!
着てる服が一瞬で変わったぞ!」
「やだ、もう忘れちゃったの?
服だって錬金術で作り替えることが出来るって
言ったじゃない」
「い、いや。確かにそんな話は……」
「全く。身体が小さくなったせいで、
脳みそのサイズまで小さくなったのかしら?」
「おい! 一言余計だぞ!
大体お前は……!」
「あぁ、もう、
本当にうるさい男ねぇ」
ヒョイ、とテーブルからキースを
つまみ上げる。
「お、おい!? 何する気だ!?」
ジタバタともがくキースを
そのままベッドまで運ぶと、
ぽいっと軽く投げた。
「ぶべっ!」
奇妙な悲鳴を上げて、
ふかふかのピローへと沈み込むキース。
すぐにガバッと身を起こすと、
怒髪天を突く勢いで文句を言ってきた。
「てめー! 投げるなよ!」
「あら、失礼」
部屋中の灯りを消しながら、
キースの抗議を軽く聞き流す。
「さ、寝ましょ、寝ましょ」
ベッドサイドの小さな灯りだけを残すと、
私はキルトをめくってベッドの中へと
潜り込んだ。
「おい!? まさか同じベッドで
眠るつもりか!?」
あからさまに狼狽えるキースに、
私は寝返りを打ちながら目を閉じる。
「安心して……私、これでも寝相は
いい方なんだから……」
ふかふかのお布団に包まれた瞬間、
秒で強烈な眠気が襲ってきた。
「はぁ!? 俺はそういう物理的なことを
言ってるんじゃ‥…!」
しかし、キースのツッコミが最後まで響く前に
私の意識はすとんと深い眠りの中へと
落ちていった――
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「……はぁ。ったく……。
よくこんな状況で緊張感なく
寝てられるよな」
薄暗い寝室の中。
サラの規則正しい寝息に混じって、
キースの小さなボヤき声が響いていた。
「いくら、こんなチビサイズに
なったからって……一応、
俺だって男だっていうのに……」
枕の端から、じっと間近にあるサラの
無防備な寝顔を見つめる。
長い睫毛、白くて柔らかそうな頬。
「……黙ってれば、少しは可愛いところも
あるのになぁ。
――って俺、一体何言ってるんだ!?」
我に返ったキースは、
慌てたように首をブンブンと横に振った。
「と、とにかく明日の為に寝るか。
その前に……この邪魔な鎧は脱いでおくか」
小さな身体を窮屈そうに動かしながら、
ガシャガシャとミニチュアの鎧を
脱ぎ捨てていくキース。
「ふ~、生き返った。身軽になったぜ」
――その瞬間。
ボンッ!!
突如として、
キースの小さな身体が激しい白い煙に包まれた――




