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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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3-13 頭を下げろ、と相棒は言った

 テーブルランプの炎が揺らめく中、

私はこの宿屋で起きた全ての出来事を

キースに説明した。


サンドイッチを貰って部屋に戻ると

アレス様がいたこと。


そこで慌ててキースを引き出しに

閉じ込めたこと。


食堂まで逃げてきたら辺りは薄暗くて、

宿屋のおじさんもお客さんたちも

全員眠りに就いていたこと。


床にはスープ皿が転がっていて、

染みが広がっていたこと。


そこへアレス様が追い付いてきて、

私に剣を振り下ろそうとしたこと。

けれど、突然両手で顔を押さえて苦しがり、

私から離れるように言って走り去って

いったこと。


そしてついさっき、食堂に戻ってみると

何事もなかったかのように

元通りだったこと……。


それら全てを

キースは一言も口を利かずに黙って

聞いていた。


やがて私が全てを話し終えると、

キースは深いため息をついた。


「……そうか……」


そして何を思ったか。

小さな身体で私をじっと見あげると、

思いもしない言葉を口にした。


「ちょっと、頭を下げろよ」


「え? 頭?」


一体何を言い出すのだろう?


首を傾げる私に、キースは地団駄を踏んだ。


「い、いいから頭下げろって!

テーブルに頭つけろよ!」


「わ、分かったわよ……」


渋々頭をテーブルにつけると、

ちっさな手が私の頭に触れた。


「……自分の好きな相手に剣を向

けられるなんて……辛かっただろ。

……良く耐えたな」


「!」


その言葉が引き金だった。

今まで一人で必死に耐えて、

押し殺してきた恐怖と辛い気持ちが

一気に蘇ってくる。


「う……うわあぁああぁぁああーーん!!」


堰を切ったように涙があふれ出し、

私は子供のようにテーブルに突っ伏したまま

泣きじゃくった。


その間、キースはちっさな手で

私の頭をずっと優しく撫でてくれていた――


****


「……どうだ? 少しは気が晴れたか?」


「う、うん……チーン!」


涙をこすり、思い切り鼻をかみながら

コクコクと頷く。


あれから私は三十分ほど泣き続け、

ようやく気分が落ち着いてきたのだった。


「はぁ~……思い切り泣いたら、

なんだかお腹が空いてきちゃったわ……」


私の言葉に、キースが一瞬で呆れ顔になる。


「お前なぁ……ついさっきまであんなに

ピーピー泣いてたのに腹が空いただと?

本当にどこまでも食い意地が張ってるなぁ」


「は? ちょっと待ってよ。

誰がピーピー泣いてたですって!?

失礼ね!」


ひどい!


さっきまでは割と優しいところも

あると思って見直していたのに。

やっぱりキースはデリカシーの欠片も無い男だ。


思わずキースに恨めしい眼差しを向けると――


「安心したよ。少しは元のお前に

戻ったようだな」


キースはフッと肩をすくめた。


「え?」


「食欲が出てきたってことは、

いつもの調子が戻ってきたってことだろ。

その方がお前らしいさ」


……確かに、さっきまでは胸がいっぱいで

何も喉を通りそうになかったけれど、

思い切り泣いたおかげなのだろう。

今の私は、悲しみよりも完全に

食欲が勝っている。


「言われてみればそうかも……あ!

そうだわ!

大事なことを思い出した!」


椅子から勢いよく立ち上がると、

ベッドの隅に置いてあった

ナップザックに駆け寄り、

その口をガサゴソと開けた。


「どうしたんだよ、急に!」


テーブルの上から、

キースが声を張り上げる。


「フフフ……これよ、これ」


ナップザックから取り出したものを、

キースの目の前に見せびらかすように

突き出す。


「……何だ? それは……?」


「ばっかね~、見て分からない?

ビスケットよ。ビスケット!」


「はぁ!? そんなの見れば分かるさ!

大事なことって、まさかそれの

ことだったのかよ!」


「ええ、そうよ。だって今の私にとっては、

これこそが大切なエネルギー供給源だもの」


ビスケットの入った紙袋を大事に抱えて

いそいそと席に戻ると、

早速一枚を口に運んだ。


パク。もぐもぐ……ゴクン。


「はぁ~……美味しい。身体に染み渡るわ……」


「うぇ……あんだけ食っといて、

よくもまぁまだ食えるよな。

まぁいい。とにかく食べ終わったら、

早めに寝るぞ。

この村に長居するのは危険だ。

また奴が襲ってくるかもしれないからな。

明日の朝一番には出立だ」


「ええ、分かったわ」


二枚目のビスケットに手を伸ばしながら、

頷いた。


うん、キースの言う通りだ。

早めにこの村を出るべきだろう。


何より、万が一また何者かが襲ってきたら

今の小さなキースの身が危険に

さらされてしまう。


「それじゃ、あと一枚だけ食べたら

寝ることにするわね」


「まだ食う気かよ!! 

本当にお前、子豚になるぞ!」


「ならないわよっ!」


こうして再び、いつも通りの口論が始まる私たち。


――そしてこの夜。


ちょっとした、ううん……。


これからの私たちの運命を大きく揺るがす、

かなりの大騒ぎが起こることになる――

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