3-6 豆騎士の受難は終わらない
「あ~美味しかった」
空になった紙皿を前に、
私は満足して紅茶を飲んだ。
キースの前にも錬金術で作り出したちっさな
小皿とちっさなカップが置かれている。
「それにしても驚きだな……
水を紅茶にすることもできるし、
こんな小さな食器まで錬金術で
作れるなんて……」
「ふふん。すごいでしょ。
でもだからと言って、なんでも錬金術で
作り替えられるわけじゃないわ。
水を紅茶にするのは仕組みを知ってるから
出来るわけだし。
でも料理となるとそうはいかないわね。
野菜から大好きな
お肉料理を作れるわけじゃないし。
それに……」
私はキースの着ている鎧をチラリと見つめた。
キースは、感心した様子で自分サイズのカップを
両手で抱え、紅茶を飲んでいる。
その姿を見て、私の脳内にある
「名案」が浮かび上がった。
「フフ……ねぇ、キース」
テーブルに頬杖をついて、
笑顔で彼を見つめた。
「な、なんだよ……その笑顔。
もはやイヤな予感しかないんだが」
「私ね、いい考えが浮かんじゃった~
あ、ちょっと! どこ行くのよ!」
逃げようとするキースのマントを指先で押さえて
人差し指でツンツンと突っついてみる。
「お、おい! 何するんだよ!
やめろ! 突っつくなって!」
本気で抵抗するキースだが、なにぶん今の彼は
エンドウ豆サイズ。
私にとっては子犬の甘噛み以下の抵抗だ。
「ねぇ、キース。
このまま小さい身体で過ごさない?」
「はぁ!? 冗談だろう!?
元の大きさに戻る方法を考えるんじゃないのかよ!」
キースはテーブルの上で立ち上がって吠えた。
「冗談なんかじゃないわよ。本気よ、本気。
だって考えても見てよ。
ポケットに入れておけば宿泊費だって
一人分で済むし、食費もアップルパイ一口で満足。
これって、最高にエコな逃亡生活だと思わない?」
「はぁ!? お、お前……そんなくだらない
理由で、俺を元に戻さないつもりか!?」
小さな声でキャンキャン吠えるキースに、
私は少しトーンを落として続けた。
「それに、私たち二人ともお尋ね者の
賞金首なのよ?
私がお尋ね者なのは仕方ないかもしれないけど、
キースは単に巻き込まれただけ。
狙われるのは私一人で充分よ」
そう。これは、冗談抜きの本心だ。
私について来さえしなければ、
彼は誘拐犯として指名手配されることも、
不本意な「駆け落ち」だと言われることも
無かった。
私の勝手で、彼の騎士としての未来を
奪ってしまったのだから。
「は? 何だよ、それ……つまり
命を狙われるのは自分一人でいいってことか?」
キースが俯く。
何か気に障ることを言ってしまっただろうか。
「どうしたの? キ ース?」
すると、キースがガバッと顔を上げた。
「ふざけるなよ! あの時、俺がこの身体にされて、
奴らがお前に手を出そうとしたとき……
どんな気持ちだったか分かるか!?」
「キース……?」
「こんな小さな身体じゃ、俺は完全に無力だ。
お前を守ってやることが出来ないだろうが!」
その言葉に、私は目を見開いた。
「キース……そんなふうに思ってたの?」
するとキースは
慌てて腕組みをすると背を向けた。
「フ、フン! 当然だろうが!
これでも俺は騎士だぞ!?
弱い奴を守るのは当然だが……で、でもまぁ
お前ならそんな必要ないか!
何しろ、皇帝と肩を並べられる
錬金術師様だからな!」
キースの耳が赤くなっている。
きっと、らしくもない台詞を口にして照
れているのだろう。
……まぁ、本来は私にではなく、
ララお姉さまに告げたい言葉かも
しれないけれど。
「そう、ありがとう」
ここは素直に礼を述べておこう。
普段は毒舌な癖に。
小さくなった方が、私もキースも自分の気持ちに
正直になれるのかもしれない。
その時。
ボーン……ボーン……ボーン……。
十八時を告げる鐘の音が、部屋に鳴り響いた。
「夕食の時間だわ!」
笑顔でガバッと椅子から立ち上がった。
「お、おい! たった今、アップルパイを
食べ終えたところだろう!?
なのにまだ食えるのか!?」
「当然でしょ? 甘いものと食事は別腹だもの」
「そうか、勝手にしろ!
だがな、俺はいかないからな!」
豆騎士キースは腕組みをしたまま、
再びテーブルに座り込む。
「駄目よ、一緒に行くのよ」
私はヒョイとキースをつまみ上げた。
「な、なんだ!って!? 離せ!
イヤだからな!? 絶対に行かないぞ!」
空中で手足をばたつかせるキース。
その顔は怒りか、あるいは照れ隠しか。
真っ赤に染まっている。
「こんなエンドウ豆騎士を
部屋に残しておくわけにいかないでしょ?
どんな危険があるか分からないし。
フフ、安心して。私が守ってあげるから」
「なっ!お、お前……!」
「さ、行きましょ、行きましょ」
私は暴れるキースをポケットに放り込み、
意気揚々と部屋を後にした。
扉を閉めるその瞬間。
窓の外を、一羽のピンク色の鳥が横切り
夕闇の中へと消えていくのが見えた——気がした。




