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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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3-5 ポケットの騎士と秘密のティータイム

 小人のキースをポケットに入れて、

私はケーキ屋を探して歩き出した。


すると村中が先ほどの巨大ゴーレムの話題で

持ち切りだった。


「恐ろしい……緑の巨人が

現れたんだってよ」


「まさかこの村に災いをもたらしに

来たのかしら」


「もうおしまいだ……また現れたら今度こそ村は

おしまいだ……」


「いや、森の神の使いだったかもしれないぞ」


広場を通りかかるだけで、

絶望と期待が入り混じった村人たちの喧騒が

耳に飛び込んでくる。


「おい。どうするんだよ。

村中が大騒ぎしているじゃないか」


キースがポケットから、ひょこっと顔を出した。


「あら、でも中にはいい噂話だってあるじゃない。

『森の神の使い』ですって。

ゴーレムは村にはびこる悪党を連れて去って行った。

結果オーライよ」


「何が結果オーライだ!

大体あいつらは俺たちだけを狙ってたんだぞ?

あんな騒ぎを起こせば

増々目立ってしまうじゃないか!」


「あ~! もう本当に、うるさいわね! 」


私は再びキースをポケットの奥に押し込んだ。


「ぶわっ!お、お前! 何してくれるんだよ!?」


ポケットの奥からくぐもったキースの

文句が聞こえてくるが、私は構わず釘を刺す。


「いいから、

ポケットの中で隠れていてちょうだい!

うかつに顔出しして誰かに見つかったら

サーカスに売り飛ばされて一生テントの中で

働かされるかもしれないじゃない。

もしくは鳥や猫に連れ去られて

食べられちゃうかもしれないわよ?」


「ヒッ!」


キースの怯えた悲鳴が聞こえた。


チラリと通りを見ると、

ちょうど一匹の猫が欠伸して木の枝で休んでいる。

私が笑顔でそこを指さすと、

キースはポケットの中でビクリと跳ね、

完全におとなしくなった。


「……」


「そうそう、そうやって静かにしておくのよ」


煩いキースを黙らせると、

私はケーキ屋を求めて商店街を練り歩いた――



****


「ただいま!」


念願の品を小脇に抱えて、

私は宿屋の扉を開けた。


「おや、お帰り、嬢ちゃん。

ん? 兄ちゃんはどうしたんだい?」


店の奥から出てきた宿屋のおじさんが

首をかしげる。

もはや私とキースが兄妹設定になるのは、

旅の定番になっていた。


「え? あ、兄とは買い物途中ではぐれてしまったので、

一人で帰ってきました」


「なんと? あの騒ぎの中1人で帰って来たのか?」


「え? 騒ぎ?」


……一瞬、何のことだか分からなかった。

私にとっては「ケーキを買う」という

大事業に比べれば、

暗殺者の一件など些細な出来事だし。


「ほら、緑の巨人が突然現れて、

大騒ぎになったじゃないか」


「緑の巨人……え?  あ、そうでしたね。

はい、その騒ぎではぐれてしまったんですよぉ~」


フフフと笑ってごまかす。


「何だ、そうだったのか~。

しかし無責任な兄ちゃんだなぁ。

あの騒ぎの中で、はぐれるなんて

さぞかし心細かっただろう?」


「ええ。そうなんですよ~困った兄です」


その瞬間、ポケットが大きく揺れた。

きっとキースは今の話を聞いて内心

面白くないのだろう。


これ以上まずい台詞が飛び出す前に、

早く部屋に戻らなければ。


「それじゃ、私部屋に戻ります」


「おう、またな」


おじさんに見送られ、急ぎ足で二階へ上がった。


トントントントン……


キィ~


バタン!


最後にガチャリと鍵をかけると、

ようやくポケットからキースが顔を出した。


「プハッ! あ~……苦しかった……

窒息するかと思った」


「大丈夫? キース。でも安心して」


キースをつまみ上げて

テーブルの真ん中に乗せた。


椅子に座って、戦利品の紙袋を置く。


「何? なんかいい方法考え付いたのか?」


キースはワクワクした表情を浮かべて、

テーブルの上で胡坐をかいた。


「ええ、思いついたわよ~」


紙袋から黄金色に輝くホールのアップルパイを

取り出して、香りをかぐ。


「う~ん。美味しそう……」


思わず両手を組んでうっとりする。


「それで?  いい方法ってなんだ?」


私は、びしっとキースを指さした。


「キース、その剣でこのケーキを

カットしてちょうだい!」


「……は?」


キースがマヌケな声を出し、そのまま固まる。


「お、おい……いい方法って……?

まさか……?」


「ええ、そうよ。早くぅ! カットしてよ!」


私は首をかしげ、

これ以上ないほど可愛らしくおねだりした。


「ふ……」


「ふ?」


「ふざけるなー!!」


豆騎士キースの真っ赤な怒号が、

夕暮れの部屋に響き渡った。


「え? 何? 何でそんなに怒るの?」


その時ふと、窓の外に視線が向いた。


夕陽に染まった窓枠に、

一羽の小鳥が止まっている。


鮮やかなピンク色の羽。


「……あら、またあの綺麗な鳥ね」


小鳥はじっとこちらを見つめたまま、

微動だにしない。


「チッ! 仕方ねぇな……切ってやるけど……

おい、何ぼーっとしてんだよ?」


キースの声に我に返る。


「え? あ、ありがとう」


「全く、騎士の命ともいえる剣を

アップルパイを切ることに使うなんて……」


ブツブツ言いながらもカットしていくキース。


その様子を少しの間見つめ……

顔を上げた。


「あら? いない……?」


再び窓を見た時。

そこにはもう鳥の姿はなかった――




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