3-4 誕生日に騎士が縮んだ、それでもケーキを買いに行く
「うわああああああ!」
マント男の手から放たれた紫の閃光が、
キースを直撃した。
目を射抜くような眩しい光が
キースを包み込む。
私は腕で咄嗟に目元を隠し、相棒の名を叫んだ。
「キースッ!!」
ボフッ!
拍子抜けするような音と共に、光が収まる。
「キース……?」
恐る恐る腕を外すと、
さっきまでそこにいたはずのキースの姿が
見えない。
「うそっ!? キース!? キースッ!」
キョロキョロと辺りを見渡す私を見て、
ボウガン男とマント男が下卑た笑い声を上げた。
「がははははは!!」
「やった! 成功したぞ!」
成功した……? まさか、消されちゃったの!?
「ちょっと! あんたたち!
キースをどこに隠したのよ!」
すると――
「姫! ここだ!」
足元から、頼りないほど小さな声が聞こえた。
「え?」
足下を見て、衝撃で思わず目を見開く。
なんと、えんどう豆程度にまで小さくなったキースが
私を見上げていた。
「きゃああああ!! エッチ! なに覗いてるのよ!」
信じられない! 人の足元にいるなんて!
叫ぶと、キースは怒りをあらわに地団駄を踏んだ。
「はぁ!? 言うに事欠いて、
最初に言うセリフがそれかよ!!」
その言葉に冷静さを取り戻す。
「はっ! そうだったわ! ちょっとあんたたち!
キースに何をしたのよ!」
「決まっているだろう?
その鎧に俺の魔力を注ぎ込んで、
そいつを使いものにできなくしてやったのさ!」
「王女の命を奪うためにな! どうだ! 思い知ったか!」
ボウガン男が、自分の手柄のように勝ち誇って笑う。
「何だって!? そんな理由で俺をこんな
身体にしたのか!?」
足元で喚くキースだが、その声は小さすぎて
きっと彼らの耳には届いていないだろう。
「よし、これで邪魔者はいなくなったな」
ボウガン男がにじり寄って来る。
するとキースはちっちゃな、
でも鋭い輝きを放つ剣を抜き放ち、
私の前に立ちはだかった。
踏みつぶしそうで怖いのですけど!
「……姫! いいから逃げろ!
ここは俺が食い止める!」
「ばかね! そんなちっさい身体で何ができるのよ!」
身をかがめてキースをひょいと拾い上げると、
そのままスカートのポケットへねじ込んだ。
「お、おい! バカ! 出せ!」
「黙ってなさい! 死にたいの!?」
ポケットの中で暴れるキースを一喝すると
敵を睨みつけた。
するとボウガン男がニヤリと笑って近づいてくる。
「へヘッ、悪く思うなよ。
あの方の御命令だからな」
「せめて苦しまないように、
あの世へ送ってやるよ」
魔法使いが再び指先をこちらへ向ける。
冗談じゃない。
私の十八歳の誕生日は、こんな奴らに
命を奪われるためにあるんじゃない。
「どこかへ行くのは、あんたたちの方よ!」
私は咄嗟に傍らにあった巨木の幹に両手を突いた。
体内を巡る魔力が、
激しい怒りと共に指先から木へと流れ込む。
私の力は「木」と非常に相性がいい。
だから出し惜しみなんてしない。
全ての魔力を注ぎ込むつもりで叫んだ。
「いでよ! ゴーレム!」
魂を削り出すような叫びに、
巨木が応えた。
ウォオオオオオオーン!!
大地を震わせ、樹皮を鎧のように纏った
ゴーレムが立ち上がる。
その姿を見て刺客たちは絶叫した。
「な、何だあれは……!
聞いてない! こんな話、
あの方からは聞いてないぞ!」
「そ、そんな……!
これほどの力だとは……!!」
マント男は腰が抜けたのか、
へたり込んでいる。
「あの方もどなたかも
分からないけれどねぇ……ゴーレム!
その二人を、どこか遠くへ
連れて行ってちょうだい!」
私の命に従い、
ゴーレムはバサバサと枝を鳴らしながら
ズシンズシンと地響きを立てて二人へ迫る。
「ば、馬鹿……よ、寄せ、来るな!」
「ひええええ!」
腰を抜かしているマント男は
這いつくばって逃げようとしたが、
ゴーレムは容赦なく枝を伸ばした。
まるで芋虫でも摘まむように、
二人をひょいひょいと小脇に抱え上げる。
そのままゴーレムは戦車のような勢いで
村の外へと走り去っていく。
「ぎゃあ!」
「ば、化け物だあぁぁ!」
「メエエエエエー!」
「モォオオオーッ!」
のどかな『ホエー』村に、
村人たちと家畜たちの悲鳴が響き渡り……
やがてゴーレムは遠くへと消えていった。
「ふぅ……。これで一件落着ね
何も被害が出なくて良かったわ」
すると上着のポケットから
ひょこっと小さな頭が覗いた。
「こ、このバカヤロー!
何が一件落着だ! 被害出てるだろう!?
俺はどうなるんだよ!」
私は暴れるキースを
ポケットからつまみ出すと、
手のひらに乗せた。
小さくなってもその目つきの悪さと、
生意気な口の利き方は変わらない。
「大丈夫よ、キース」
ニコリと笑顔で語りかける。
「な、なにがだよ……。
身体はこれっぽっちだし、鎧は重てぇし……
あ! もしかして俺を元に戻せるのか!?」
キースは期待の眼差しを向けてくる。
「ううん、そんな方法は知らない」
「何だと!? なら何が大丈夫なんだよ!」
途端に今度は怒りの表情に変わる。
笑ったり、怒ったり忙しいことだ。
「小さくたって生きていけるわ。
何なら、私のポケットがあなたの新しい『城』よ」
「じょ、冗談じゃない! ふざけるなー!」
手のひらの上で精一杯手足をバタつかせて
怒るキース。
その様子の面白いことといったら!
「プ。アハハハハハハ!!」
「笑うなっつってんだろ!」
「いいから、いいから。
とりあえずケーキを買いに行きましょう。
私の十八歳の誕生日なんだから。
折角のおめでたい日、ちゃんとお祝いしなくちゃ!」
「……こんなんで祝えるかー!」
喚き散らす小さな騎士を再び
ポケットに押し込み、軽やかな足取りで
ケーキ屋を目指した。
パササササ……
その時。
ふと頭上で鳥の羽ばたきが
聞こえた気がした――




