3-3 十八歳の誕生日は、最悪の幕開け
自分のいた場所に弓矢が突き刺さり、
少しの間私は茫然と立ち尽くした。
「……え? 今ひょっとして私が狙われた!?
目つきの悪いキースじゃなく、
このチャーミングな私が!?」
あまりの理不尽さに叫ぶと
キースが顔を真っ赤にして喚き散らした。
「お前なぁ! 折角助けてやったのに
なんだ! その言い草は!
くそっ、助けてやって損したぜ!」
「何よ! 損したって!」
言い返した瞬間。
キースはパッと私から手を放すと、
素早く腰の剣を引き抜いた。
ガキィイインッ!
鋭い金属音が響き、キースが次に飛んできた
矢を鮮やかに弾き返す。
弾かれた矢は真上に飛ばされ、
空中でくるくると弧を描きながら
私の足元擦れ擦れにブスリと突き刺さった。
そぞぞぞぞっ!
一気に背筋が寒くなる。
「きゃあああ! な、なんてことするのよ!
危ないでしょ!?」
「うるせぇ! わざとじゃない!」
前を見据えたまま、キースが怒鳴り返す。
その視線の先――民家の木の影から、
ボウガンを構えたキース以上に
目つきの悪い男が現れた。
さらにその背後には、深いフードを纏った
これまた人相の悪そうな男が控えている。
「ほぅ……よくぞ俺の矢を凌いだな。
中々やるじゃないか」
ジャリッと石畳を鳴らし、
ボウガンを構えた男が一歩前に出る。
「ふん! こう見えても戦闘訓練は受けているからな。
それに……」
「ちょっと! あんたたち!
不意打ちなんて卑怯者め!
戦うなら、堂々と正面からかかってきなさいよ!
性格悪過ぎよ!」
私はキースの背中からズイッと身を乗り出し、
男たちを一人一人指さして叫んだ。
「ば、ばかっ! お前、何やってるんだよ!
下がってろ!」
背後からキースの焦った声が聞こえるけれど、
止まっていられない。
せっかくの誕生日が台無しじゃない!
するとボウガンの男がニヤリと
下卑た笑みを浮かべた。
「ほう……バルディアの第二王女。
中々気が強いようだな。噂通りだ」
「え? 噂? 一体どんな噂なのよ!」
「いいからお前は引っ込んでろ!」
キースに肩を掴まれ、強引に後ろに下げられる。
ボウガン男は不敵な笑みを崩さない。
「やはり、お前が駆け落ち相手の騎士だったか」
「はぁ!?」
「何ですって!?」
私とキースの声が見事にハモった。
私とキースが駆け落ち!?
どこをどう捻じ曲げればそんな破天荒な
話になるって言うの?
しかし、私たちの動揺を余所に
背後のマント男が冷淡に言い放つ。
「バカな騎士だ。
だから国王からも命を狙われることになるんだ」
「はぁ!? 俺が国王からも狙われてる!?
それマジで言ってるのか!?
冗談じゃねえぞ!」
お父様からも狙われてる?
そんな話は初耳だ!
「キース! そうだったの!?」
慌ててキースを見あげる。
「そんなの今知ったに決まってるだろうが!」
混乱の極みに達した私たちに向かって、
ボウガン男が吠えた。
「あー! うるせぇ奴らだ!
死んでからあの世で話しやがれ!」
男が再び矢をつがえようとするより早く、
キースが地を蹴った。
ビュッ!
鋭い一閃が走り、
キースの剣が男のボウガンを叩き落とす。
「チッ! おい!やれ!」
ボウガン男の合図に、マント男が大きく頷いた。
胸の前で両手を組むと唇が不気味に蠢き、
呪文のような言葉を紡ぎ出す。
「……ッ、魔法使いか!?」
キースが気づいた時には、すでに遅かった。
次の瞬間。
「うわあああああ!!」
キースの悲鳴が
ホエー村の平穏な空気を引き裂いた――




