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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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3-2 今日は特別な日――弓矢付きで

「おじさーん! 焼き立てアップルパイ、

ホールでちょうだい!」


宿屋の一階にある食堂で、

私は席に着くなりマスターに向かって

声を張り上げた。


すると、向かいに座るキースが

信じられないものを見るように目を見開く。


「はぁ!?  朝からケーキ!?

しかもホールで!?」


「いいじゃない、今日は特別な日なんだから」


「ふわぁ~……。だから、その特別な日って

一体何だよ……?」


キースが眠そうに欠伸をしながら尋ねる。


「それはねぇ……」


言いかけた、その時だった。


「すまないねぇ、お嬢さん。

生憎うちではケーキは取り扱っていないんだよ。

代わりと言っては何だけど、これならどうだい!」


おじさんは大皿に乗ったホール料理を、

ドンと目の前に置いた。


これは……ケーキ、なのかしら?


硬そうなシンプルケーキには、

青紫色の粒粒がまんべんなく混ざっている。


はて、これは一体……?


ふとキースを見れば、

なぜか目を見開いてその物体を凝視している。


「あの~おじさん、これは一体何かしら?」


「ホールチーズじゃ。わが村の特産品だな」



チーズと聞いて、私の胸が躍った。

実は何を隠そう。

私はアップルパイも好きだけれど、

チーズケーキも大好きなのだ。


「え!  それじゃチーズケーキかしら!?

それで、この青いのはベリーなの?」


「ぷ!」


するとキースが噴き出す。


「いや、それはカビじゃな」


腕組みしたおじさんは、あっさりと首を振った。


「……カビ?」


「そう、アオカビチーズだ!」


「プハハハハハ!」


たまらず笑いだすキースに、

私のこめかみがピクリと動く。


「ちょっと! キース! 何がおかしいのよ!

それにおじさん! 

かびたチーズなんか食べられるはずないでしょ!」


するとおじさんは青筋を立てて怒鳴り返してきた。


「何を言う! このカビがうまさの秘訣だ!」


おじさんは私の目の前でチーズを

カットすると、その場でぱくりと口にした。


「~! 最高だ! この濃厚な口当たり! 

舌にピリッと残る辛みに、この塩気!

やはり『ホエー』村の特産品アオカビチーズは

一味違う!」


まるでグルメ評論家のような表現に、

さすがの私でも食指が動いてしまう。


「……そんなに、美味しいのかしら?」


「あぁ! 勿論! 太鼓判を押してもいい!」


「なら、少しだけ……そこのカビがある部分を

ほんの少し、一ミリほどスライスしたのを

貰えるかしら?」


「あぁ、お安い御用だ!」


おじさんはナイフを取り出すと、

器用にくるくると手の上で回す。


危なっかしいったらありゃしない。

そして滑るような手つきでスライスされた

チーズが、私の皿の上にハラリと落ちた。


ゴクリ、と喉が鳴る。


……どうしよう、本当に食べても平気なの?

これでも私は一国の姫。

かびた食品を食べるなんて……。


しかし、目の前のキースはいつの間にか

自分でチーズを切り分け、

「うまいな~これ!」と言いながら、

パンにのっけてハムもレタスも挟んで

豪快に食べている。


「い、頂くわ……」


「おう! 食ってみろや!」


随分とガラの悪いおじさんだわ。


言いたいことは山ほどあったけれど、

私は早速うす~くスライスされたチーズを口にし……。


「~!!」


美味しさのあまり、悶絶した――


****


「あ~美味しかったわ。アオカビチーズ最高ね!」


宿を出た後、私とキースはホエーの村の

緩やかな坂道を歩いていた。


「ったく、あんなに露骨に嫌がっていたくせに。

結局十枚もパンに挟んで食べたじゃないか。

ほんとに大食いだな」


「失礼ね、八枚よ!」


語るに落ちるとはこのことだけれど、

訂正せずにはいられない。


「ところで、どこに向かっているんだ?

買い物なら、宿屋に戻って荷馬車で

来るべきだったじゃないか」


「ケーキ屋を探すのよ。

何としても今日はケーキを買って

食べるんだから!」


ズンズンと前を歩く私に、

キースの呆れた声が追い付いてくる。


「何だって!? あんなに食ったのに、

このうえケーキまで買うって言うのか!?

ほんとに今に子豚になるぞ!?」


「いいじゃないの! だって今日は私の十八歳の誕生日!

成人を迎えた記念の日なんだから!」


すると、キースが突然真面目な顔になった。


「え……? そうだったのか?」


「ええ、そうよ」


私が誇らしげに胸を張った、その時。


「あぶない!」


突然キースが私を抱え、大きく右に動いた。

視界が急激に傾き、地面を蹴る衝撃が伝わる。


途端。


――シュッ!


鋭い風切り音と共に、

すぐ傍の地面に一本の弓矢が深々と突き刺さった――




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