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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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3-1 特別な朝と、解けない魔法の鎧

チュン、チュン……。


窓の外から聞こえる小鳥のさえずりで、

私は目を覚ました。


「う〜ん……」


ベッドの中で思い切り伸びをして、

ごしごしと目をこする。


「ふわあああ……もう朝なのね……」


ここはバルディア王国の国境付近にある

宿場村『ホエー』。


畜産業が盛んで、新鮮なミルクやバター、

チーズの香りが朝の空気に混じっている。


キースは昨夜、

「こんな田舎村、よそ者がいたら目立つ。

長居は無用だ」と渋っていた。


けれど私が「お兄ちゃんの意地悪! 

人でなし!」と

道端で駄々をこねて、一泊もぎ取ったのだ。


この村唯一の宿屋は、

部屋数がわずか五つの小さな場所。


宿泊客は私とキースの二人だけ。

室内は壁も天井も、床まで全てが木材で、

どこか温もりを感じさせる。


「スゥ……フフ。

大好きな木の匂い。落ち着くわね……」


実は、私の錬金術の源は「食」だけではない。


「木材」から発生する芳香も、

私に活力を与えてくれる大切な

エネルギー源なのだ。


かつてお城にいた頃、

騎士たちの給料日が近づくと、

お父様は私に金塊の生成を命じた。


その量は膨大で、

本来なら倒れてしまうほどの重労働。


だからこそ、私は一面を木に囲まれた

部屋に閉じこもり、

その香りで気力を回復させながら、

国を支えるための金を生み出し続けていた。


「……お父様は元気にしているかしら。

それにお姉さまに、アレス様も……」


ぽつりと呟いた瞬間、

大事なことを思い出した。


「そうだ! 今日は『特別な日』だったじゃない!

こうしてはいられないわ!」


ベッドから飛び降りると、

寝間着に手を当てて強く念じる。


――ピカリ!


寝間着は瞬時に、

ベージュを基調とした華やかなワンピースドレスへと

変化した。


「うん、今日の服装、決まってるぅ〜!」


鏡の前で一回転すると、

私は隣のキースの部屋へと飛び込んだ。


「おはよう、キース!!」


ノックもせず扉を開けると、

そこにはまだ夢の中のキースがいた。


そこで窓へ駆け寄り、

シャッ! と音を立ててカーテンを開ける。


「……ッ、ま、眩しい……」


「キース! 起きて!」


私の叫び声に、

キースはガバッと跳ね起きた。


「はぁ!? な、何でお前が

ここにいるんだよ!」


「起こしに来たのよ。おはよう、キース」


「お前なぁ……! 勝手に入ってくるなって

言ってるだろう!? しかも男の部屋に!」


相変わらずの口の悪さ。


今では敬語も消え、私を「お前」呼ばわりだ。


ふと、キースが私の格好を見て眉をひそめた。


「……今日は随分めかしこんでるな」


「ふふん、分かる? 今日はね……」


「まったく、お前ばかり毎回服を

着替えやがって。

たまには俺の分も用意しろよ」


キースが不貞腐れたように言う。


「あら、毎回用意してあげているじゃない。

新品の鎧を」


「だから! 一日中鎧でいるのは

疲れるんだって言ってるだろ!

俺だって普通の服がいいんだよ!」


私はわざとらしくため息をついた。


「全く……我儘な人ねぇ。

騎士の正装といえば鎧でしょう?」


……でも、本当は「嘘」だ。


バルディアの騎士に支給された鎧には、

ララお姉さまの強大な『保護魔法』が

かけられている。


あまりに複雑な魔術回路が組み込まれた

その鎧は、私の錬金術をもってしても、

別の素材に作り替えることができない

仕様になっていた。


だから、私はせめてもの手向けとして、

デザインを変えた新しい鎧を

生成してあげていたのだ。


「それでも疲れるものは疲れるんだ!」


いまだにベッドの上で、喚くキース。


「……仕方ないわね。

今日の私は機嫌がいいから許してあげる。

何しろ今日は『特別な日』なんだから」


「何なんだよ、さっきから」


「まぁいいから、いいから。

早く着替えて、食事をとりに

行きましょう!」


首をかしげるキースをよそに、

私は笑顔で朝食へと誘う。


そう。

だって今日は私にとって、

一年に一度の特別な日。


……けれど。


別の意味で『特別な日』になることを、

この時の私はまだ知る由もなかった――

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