2-14 毎日追われ、毎回巻き込まれる騎士の受難
『ルソン』の村を出発して、
あれから2週間が経過していた――
私とキースの旅は続き、
行く先々で賞金稼ぎたちに
狙われるようになっていた。
ある日はキースと二人で食事中のこと。
バンッ!!
いきなり賞金稼ぎたちが扉を蹴り破って現れた。
「きゃあ! な、何!?」
「なんだ、なんだ!?」
店内に響き渡る叫び声。
すると黒ひげを蓄えた男が
私たちをビシッと指さす。
「お前らが賞金首だろう?」
「観念しろ!」
ぼさぼさ髪の男が吠える。
「チッ! また厄介なのが現れたか」
骨付き肉にかぶりつくキースが舌打ちした。
「全くだわ、食事くらいおとなしく
食べさせて欲しいわね」
蜂蜜をたっぷりかけた焼き立てパンケーキを
フォークに刺して口に運ぶ。
「ハン! 呑気な奴らだ。
こんな時に飯を食ってられるんだからなぁ!」
「賞金は俺たちの物だ!」
男たちは周囲の客たちを体当たりで
弾き飛ばしながらこちらに向かって
突進してくる。
本当に迷惑な賞金稼ぎたちだ。
「おとなしくつかまれ!」
1人の男が私に手を伸ばしてくる。
「ったく!」
キースの目が怪しく光り、
腰の短剣を握りしめたとき――
「もう! うるさいわね!」
私は咄嗟に指をパチンと鳴らして
錬金術を発動させた。
すると瞬時に周囲の空気が凝縮されて、
眠り薬に変わる。
「う……」
「な、何で急に……?」
たちまち男たちはバタバタと倒れていく。
ついでに周囲にいた客たちも。
尤も私には何の影響もない。
基本、私が発動させた錬金術は
術者に優しい仕様になっている。
つまり、私には無害ということなのだ。
フフン。
連日のように追手たちを錬金術で撃退
しているから、大分私の腕も
以前に比べて上達したみたい。
賞金稼ぎたちは無様に床に転がって、
大きないびきをかいている。
……まぁ他にも眠った人たちはいるけれど。
「やった! 大成功ね!
キース……?」
見れば向かい側に座っていたキースは
テーブルに突っ伏して眠っていた。
「……まぁ、厄介な賞金稼ぎは
眠ってしまったから結果オーライよね?」
とりあえず、食事が済んでから
キースだけ起こしてあげよう。
私は食事の続きを再開した――
****
またある日は、食料の買い出し中に
路上でいきなり襲われた。
「逃がすものか!」
もう何回聞いたであろう、その台詞。
「くそっ! めんどくさい奴らめ!」
キースがスラリと腰の剣を抜く。
「ベーだ! 逃げるに決まってるでしょ!」
私は腰に下げていた麻袋から種を取り出すと、
強く念じて悪党たちに投げつけた。
次の瞬間。
巨大なツタが地面から一気に伸び上がり、
賞金稼ぎたちをぐるぐる巻きにしていく。
「ぎゃあっ!! な、なんだ!?」
「あの女……魔女か!?」
1人の男が私を見て顔色を変える。
魔女という言葉は気に入らないけれど……。
「ナイスよ、私! さぁ! キース!
今のうちに逃げるわよ!」
しかしキースの姿はどこにもない。
「あら? キース?」
すると……。
「このばかやろー!!
何で俺まで巻き込むんだよー!!」
頭上から怒声が降ってきた。
見ると、ツタに巻かれて振り回されている
キースがいる。
「ぐあああ! 目が回る!」
「き、気持ち悪い……」
「よ、よせ! 馬鹿! 振り回すなー!」
悪党たちとともに喚くキース。
「キース! 今助けるわ!」
タタタッと駆け寄ると、ツタに訴えた。
「他の男たちはどうでもいいから、
キースを放して!」
すると私の訴えに応じるように
ツタがビュッとキースをぶん投げる。
「うあああああー!」
宙を飛んでいくキースの叫び声が
遠ざかっていく。
「……うん、鎧をつけているから
大丈夫でしょう」
……多分ね。
後で捜しに行ってこよう――
****
そんなこんなで逃亡が続いた
ある日の出来事……。
――昼下がり。
パチパチパチパチ……
森に囲まれた湖で、
私たちは焚き火に当たっていた。
「う~……」
ガタガタ震えながら、鎧を脱いだキースが
焚き火に当たっていた。
髪はびしょ濡れで、
丸太には着ていた服が干されている。
そして先ほどから恨めしそうな目で
私を睨みつけていた。
「だから、さっきから謝っているでしょう?
まさかあんなに綺麗に湖に
真っ逆さまに落ちるとは
思っていなかったのだから」
実は先ほど……。
湖で黒装束の悪党たちに襲われて、
私が錬金術でキースもろとも
湖に吹き飛ばしてしまったのだ。
「ふざけるな! いい加減にしろよ!
俺は鎧を着てたんだぞ!?
一歩間違えば溺れるところだったじゃないか!」
「でも無事だったじゃない。
事前にその鎧に私が錬金術で
水に浮くようにしてたお陰で
溺れなくて済んだわけじゃない。
結果オーライよ」
するとキースは拳を握りしめた。
「何が結果オーライだ!
よし! 決めた!
もうこの大陸には居られない!
毎日毎日追われて、
そのたびに姫の錬金術に巻き込まれて!
俺の寿命が縮む一方だ!
追手が来ない別の大陸へ逃げるぞ!!」
え? それ本当?
「それじゃ、船に乗れるのね!?
私、まだ一度も海を見たことなかったの!」
「喜ぶところはそこかよ!!
……まぁいい。
それと姫、次は俺を湖に叩き落とすような
真似はするなよ。
服が乾いたら出発だ!」
「やったー!」
私は両手を上げて大喜びした。
けれど……。
この時の私たちは、まだ何も気づいていなかった。
自分たちの命を狙う黒幕の正体に――




