2-11 チキンサンドと、キースの雄たけび
クンクン……。
何だか、美味しそうなお肉の匂いがする……。
でもそんなはずないわよね……。
だって、賞金首になったキースのせいで
食料を買うことが出来なかったのだから……。
あぁ……お腹が空きすぎて
死んでしまいそう……。
「……姫……姫……」
遠くで、キースの声が聞こえてくる。
何でこんな時まで、
あの毒舌騎士の幻聴が聞こえてくるのかしら。
どうせならアレス様の声が
聞こえてくれれば良かったのに……。
するとこんどは、
はっきりキースの声が聞こえてきた。
「いいんですか!?
俺が全部食ってしまっても!」
「え!? それは駄目よ!」
パチッと目を開けると、
何と驚くことに
睫毛が触れるのではないかと思うほど
近くにキースの顔があった。
「良かった! 姫!
意識が戻ったんですね!?」
「キ……」
驚きで思わず喉が引きつる。
「キ? 俺はキースですけど?」
「きゃああああ!! この痴漢っ!!」
ビュッと右手を振り上げ、
キースの左頬を平手打ちした。
パーンッ!!
「痛ってー!!」
青い空に乾いた音と、
キースの叫びが響き渡った――
****
「だから~さっきから謝ってるじゃないの。
ごめんなさいって」
キースが調達してきた
出来立てのチキンサンドを頬張りながら
謝る私。
「飯を頬張りながらって、
それが人に謝る態度ですか!」
赤い左頬で恨めしそうに睨むキース。
今、私たちがいるのは「ルディア」の町から
ほど近い場所にある宿場村「ルソン」。
村の中を小川が流れ、
いたるところで水車がカラカラと回る
のどかな村だ。
キースはここで唯一の食堂から
チキンサンドを買ってきて、
荷馬車で横たわっていた私に
匂いをかがせていた……らしい。
そこで目が覚めた私に
平手打ちされた……というのが
事の経緯だった。
「ったく、なんてじゃじゃ馬だ……」
じゃじゃ馬という言葉に
眉がピクリとするも、ここは我慢。
何しろ彼のお陰で命拾い?
出来たのだから。
「仕方ないでしょ。
だって襲われると思ったのだから」
うん、このチキン、
ハーブが効いていて美味!
「な、お、襲う!?
冗談じゃありませんよ!
俺の趣味じゃないですからね!」
「ふ~ん、例えば、
ララお姉さまみたいな方が好みなの?
でもおあいにく様。
ララお姉さまにはもうお相手がいるのだから」
「……は?」
チキンサンドを完食し、
包み紙を畳んでいると
キースが間の抜けた声を出す。
「あら、どうしたの?」
みるとキースは右手をぺたりとおでこに
貼り付けて固まっている。
「どうしたの? キース。
もしかして馬車酔い?
顔が青いわよ?
これに懲りて二度とスピードは
出し過ぎないことね」
「馬車酔いなんてしてませんよ!
でも一気に気分が悪くなってきました……」
「食べ過ぎじゃないの?」
「違います! それよりも!
どういうことです!?
ララ様とアレスの野郎が
どうしたって言うんです!?」
「何ですって!?
アレス様を野郎呼ばわりしてくれたわね!?
大体、キース!
あなたは日ごろから……」
「あー! うるさい!
それよりララ様とあの野郎が
何だって言うんです!」
この言葉に、さすがに穏便な私でも
プチッときた。
「野郎は、あなたの方でしょ!
だからキースはララお姉さまに
選ばれなかったのよ!」
「そう、それだ!
ララ様は誰を選んだって言うんだ!?
教えろ!」
もう王女に対する言葉使いではなくなっている。
ならこちらも遠慮は無用。
「ララお姉様は恋人に
アレス様を選んだのよ!
しかもアレス様はねぇ、一本一本棘を抜いた
真赤な薔薇をお姉さまにプレゼント
したのだから!!
ついでに『あなたを愛しています』と言ってね!」
毒舌キースにダメージを与えつつ、
自分も同時にダメージを受ける。
するとキースが一瞬で固まった。
「……は? う、嘘だろ……?
な? 嘘だよな!?」
まさかキースは本当に
知らなかったのだろうか?
「嘘じゃないわよ。私が城を出たのだって、
それが原因だもの」
すると‥‥‥。
「ハハ……う、嘘だー!!」
のどかな「ルソン」の村に、
キースの叫びが響き渡った――




