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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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2-10 じゃじゃ馬姫、暴走中につき

 ガラガラガラ……! 


馬車は狂ったように疾走していた。


御者台で手綱を握るキースは

もはや立ち上がり、

マントをなびかせ「ハイヨ! ハイヨ!」と

馬に激しい掛け声を浴びせている。


「あ~あ……可哀そうに。あんなに走らせて。

大体自分から『馬がバテるでしょう?

可哀そうだと思わないんですか?』

って言ってたくせに」


これでは次の町へ行くまでに、

お馬さんがバテてしまいそうだ。


「う~ん……どうしたものかしら」


荷台から身を乗り出して後ろを見れば、

もうすっかり町外れまでやってきている。

ここまでくれば、流石に追っ手は来ないだろう。


「ねぇ、キース! キースってば!」


しかし、いくら呼びかけてもキースは

「ハイドッ! ハイドッ!」

と叫び続けている。


駄目だ。

自分が賞金首になったショックで、

すっかり正気を失っているのかもしれない。


かくなるうえは……。


私はバッグから空の瓶を取り出すと、

意識を集中させた。


「……」


やがて……。


タプン


瓶の中で水が跳ねる音が響いた。


「……できたわ!」


中には透明な水が溜まっている。


肩で息をしながら瓶を見つめた。

これは空気中の水蒸気を瓶の中に

凝縮させる魔法。


本来、私が得意とするのは物体を別の物に

作り替える錬金術だ。


無から物質を作り出す魔法は苦手だった。


「ララお姉様なら、こんな魔法

一瞬で出来てしまうのだけどね……」


優しい笑顔のララお姉様が脳裏に浮かぶ。


お姉様は攻撃魔法が得意だった。

たとえ危険な魔物との戦闘であっても、

お父様に自ら申し出て最前線へと参戦していた


そんな美人で魔道に長けたお姉様は

騎士たちの間でも絶大な人気を誇り、

親衛隊までいた。


そして、アレス様も……。


騎士たちと供に戦うお姉様と、

それを見守るアレス様。


かたや錬金術で小さな金塊を作っては、

お菓子を食べて笑っているだけの私。


アレス様に選ばれる理由なんて、

最初からどこにも無かったのだ。


「アレス様……」


ポツリと呟いた、その時。


「ハイヨーッ!!」


キースの雄叫びで我に返る。


「そうだったわ!

キースを止めるために、

慣れない魔法を使ったのに!」


激しく揺れる中、御者台に近づく。


瓶の蓋を開けて中の液体を

キースの頭に注ぎながら叫んだ。


「ちょっと! キース! いい加減にしなさいよ!」


すると……。


「うああああああ!! 冷たっ!?  何!? 敵襲か!?」


いきなり頭上から降り注いだ液体に、

キースが絶叫する。


しかし、その悲鳴はすぐに別のものへと変わった。


「うあああああ!! し、しみる!!

ぺっぺ! しょっぱい!! 

なんだこれ、海水か!?」


キースが顔を歪めて喚き散らす。

どうやら私は焦るあまり、

遠く離れた海の成分まで

引き寄せてしまったらしい。


「あら、ごめんなさい!

慣れない魔法なんて使うから……」


「ううう……しみる……!

痛くて目が開けられないじゃないですか!」


喚くキースの手綱を握る手が、

目に見えて緩んだ。


よし、今のうちに!


咄嗟に御者台へ身を乗り出した。


キースから手綱を奪い取ると、

見よう見まねでグイッと強く後ろに引っ張る。


「ヒヒーン!」


馬が鋭くいななき、走る速度を落とし始め……

ようやく穏やかな小走りになった。


「やったわ! 成功だわ!」


フフン、

私って意外と馬車を操る才能が

あるんじゃないかしら。


一方で、隣のキースは散々な有様だ。


「目が……目がしみるっ!」


「あぁ、ほら、こすったらだめよ。

はい、これ貸してあげる」


親切な私は、ポケットから出した

ハンカチをキースの目元に

あてがってあげた。


「うぅ……」


ハンカチで目を押さえながら、

キースが恨みがましい声を上げる。


「何てことしてくれるんですか!

このじゃじゃ馬姫!」


「あら、失礼。

でも馬を止めるためには仕方なかったのよ。

だって可哀そうでしょう?」


「だからって海水をかけることは

ないでしょう!

大体、どこから集めたんですか!」


「魔法で瓶に集めたのよ」


空になった瓶を振ってみせる。


……だが、その瞬間に視界がぐにゃりと歪んだ。


やはり苦手な魔法を使ったツケが

回ってきたようだ。

私の体力は、すでに限界を迎えていた。


「姫? なんだか顔色が悪いようですよ……?」


ようやくキースも私の異変に気づいたのか、

その表情が真剣なものへと変わる。


「キース……私……もう……」


ガクッと体の力が抜ける。


「え?  姫!? 姫!?」


キースの焦った叫び声が、

どんどん遠くなっていく。


意識が無くなる直前に感じたことは、

ただ一つ。


……あぁ、お腹空いた――

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