2-9 指名手配101万ジュエル、心当たりがありすぎます
建物の前に人だかりが出来ていた原因は
懸賞金付きの指名手配ポスターだった。
まだ糊の乾ききっていない真新しい貼り紙が
これ見よがしに掲示されている。
そこに描かれているのは、
ひどく人相の悪い男。
吊り上がった目に不敵な笑み。
口角は耳元まで裂けそうなほどに上がっている。
――どう見ても悪役である。
「へ~、珍しいわね。
懸賞金のポスターなんて。
どれどれ……」
私は身を乗り出し、
その文字を読み上げた。
「『指名手配。
キース・ヴァン・グレイハウンド(20歳)。
この男を捕らえ、
バルディア城へ引き渡した者に101万ジュエル進呈』
……え? バルディア城?」
思わず首を傾げてキースを見あげる。
「ねぇキース。
この賞金首、あなたと同じ名前なのね。
それにしてもすごい名前ね。
キース・ヴァン・グレイハウンドだなんて
まるで貴族みたい。
フフ。101万なんて、半端な額が少し面白い
わね……え?」
そこで私は気づいた。
「……あら? どうしたの?」
隣にいるキースが石像のように固まっている。
そして額には滝のような冷や汗。
「な、な、何故だ……?」
ポツリと呟くキース。
周囲の野次馬たちも、
ポスターを見てざわめいていた。
「ひぇぇ、なんて極悪面なんだ」
「こんな人相の悪い奴が城の騎士とはなぁ」
「賞金は欲しいが、返り討ちにされそうだ」
「絶対モテないだろうな」
うんうん、と私は頷く。
「ほんとですね。モテるはずないですよ。
この人物、性根から腐りきっているに
違いありません」
「お? お嬢さんもそう思うかい?」
隣のおじさんが感心したように笑う。
そして、
ふとキースへと視線を向けた。
「……ん? なんだか、この兄ちゃん
人相書きに似ているような……?」
「ふむ、確かにそうだぞ。
騎士の格好も同じだし……」
じわじわと周囲の視線がキースに集まり始める。
その瞬間――
「行きますよ!」
「え? ちょ、キ――ムゴッ!?」
キースは私の口を片手で塞ぎ、
そのまま強引に肩を抱き寄せてくる。
そして何事もなかったかのように
人混みをかき分けるように
連れされてしまった――
****
「ムゴーっ! ムゴッ!
(ちょっと! 離しなさいよ!)」
荷馬車に到着したところで、
ようやくキースが腕を放した。
「プハッ! ちょっとキース!
いきなり何するのよ!
呼吸が止まるかと思ったじゃない!」
深呼吸しながら、文句を言う。
「当然でしょう!?
あんな場所で名前を呼ばれたら
破滅です!」
「どうしてよ?」
キースは信じられないものを
見るような目で私を見た。
「……それ、本気で言ってます?
あのポスター……俺なんですけど」
「ええ!? 嘘でしょう!?」
思わず叫ぶ。
「こんな嘘ついて何になるって言うんです!
信じたくありませんが、事実ですよ!」
「何をやったのよ!?
まさか城の金庫からお金を盗んだの!?
やはり目つきだけじゃなく、素行も
悪かったの!?」
「一言余計です! 大体盗むわけないでしょう!
騎士の給料は物凄く高いんですよ!
その証拠に、
毎月金塊を貰っているんですから!」
うん? 金塊……?
もしかして……。
「へぇ、そうなの。知らなかったわ。
そういえば、お父様から毎月同じ日に
金を生成してほしいって頼まれてたけど……
あれが給料だったのかしら?」
「ガーン!」
キースの口から聞いたこともない
言葉が飛び出す。
「……何? 今のガーンて」
「ショックを受けたときの効果音です!」
頭を抱えるキース。
「つまり俺たち騎士は……
この能天気王女に養われていたと……?」
「ちょっと! 誰が能天気よ!」
腕を組んで睨みつける。
「それより! キースは平民じゃなかったの!?
その名前、どう考えても怪しいわよ!」
「お、俺の故郷では普通なんですよ! それより――」
キースは周囲を見回し、声を潜めた。
「早いとこ、ずらからないと!」
「はぁ!? まだ食料を買ってないわよ!」
食料を持たずに旅に出るなんて、
冗談じゃない。
私が市場の方を振り返った瞬間。
「こ、この……バカ姫!」
「きゃっ!?」
キースは私をひょいと担ぎ上げ、
そのまま荷台に放り込んだ。
「ちょっとキース!?」
ガバッと身体を起こして文句を言うも、
返事はない。
キースは素早く御者台に乗り込むと
鬼気迫る表情で手綱を握りしめる。
その瞬間、すぐ近くで怒声が響き渡った。
「見つけた! あいつだ!」
「追え! 追うんだ!」
振り返ると、数人の男たちが
こちらに向かって駆けて来る。
「あら? あの人たちは?」
するとキースが舌打ちする。
「チッ! 見つかったか!
誰が待つかよ!
行くぞ! ハイヨーッ!」
ピシッ!
手綱が鳴り、ヒヒン と馬が高くいななく。
次の瞬間――
荷馬車は土ぼこりを巻き上げて
ガラガラと勢いよく走り出した。
「いやあああー! 食料! 私の食料がー!」
「うるさい! バカ姫
食料よりも命が先だー!」
こうして私とキースを乗せた馬車は
ルディアの町を猛烈な勢いで駆け抜けていった――




