2-8 じゃじゃ馬姫と野次馬根性
ガラガラガラガラ……
キースは何か気になることがあるのか、
出発してからずっと無口だった。
でも私には今、それより大切なことがある。
騒がしい荷台の上から、
私は大声でキースに告げた。
「キース! 次の町へ出発する前に
市場に寄りましょう。
まずは保存の利く食料を沢山買うのよ!
この荷馬車が埋まるくらいにね!
そうだわ、ついでに寝袋も買わないと」
食べ物の話になると、
つい笑顔になってしまう。
「……まったく……朝っぱらから
見ているこっちが胃もたれしそうなくらい
食べていたのに、まだ食い気ですか? 」
「失礼ね! あんなの食べた内に入らないわよ!」
「それに今、何かおかしなことを
ほざいていませんでしたか?
確か、寝袋とか……」
「ええ、言ったわよ。
だって寝袋は絶対必要だもの」
するとキースの顔が青ざめる。
「はぁ? まさかこの期に及んで
まだ野宿とか考えてるんじゃ
ないでしょうね!?」
「当然じゃない。
何と言っても旅に野宿はつきものなのよ!」
「いやですよ! 冗談じゃない!
絶対野宿なんて御免です!
俺はベッドの上じゃないと
寝れないんですよ!」
手綱を握りしめて喚くキース。
その必死な形相に、
私は思わずジト目を向けた。
「何よ、ベッドの上じゃないと寝れないなんて。
キースは騎士なのでしょう?
……まさか、いいところの令息なのかしら?」
「っ!」
すると何故か一瞬。
キースは言葉に詰まり、
気まずそうにそっぽを向いた。
「別に! ただの平民ですよ。
それでも野宿は反対ですからね。
大体、危険だとは思わないんですか?
姫に何かあったら、俺の首が飛ぶんですからね!」
全く、こんなに頑固とは……。
まぁ、薄々思ってはいたけれど。
「分かったわよ。そこまで言うなら
野宿は妥協してあげる。
でもその代わり、
この荷馬車は食料で埋め尽くすわよ!」
荷台で両腕を広げて宣言すると、
キースは盛大なため息をついた。
「……本っ当に、姫は馬鹿ですねぇ」
「誰が馬鹿よ!」
「そんなに荷物を詰め込んだら、
馬がバテるでしょう?
可哀そうだと思わないんですか?」
「うっ! わ、分かったわ……仕方ない、
半分で妥協しましょう。
とにかく市場へ急ぐわよ!」
キースは「はいはい……」とやる気なさそうに
呟くと、馬を走らせた――
****
市場の中心街は人で溢れ、
美味しそうな匂いがあちこちから漂ってくる。
「うわぁ~ お肉がすごい!
あの大きいドーナツも最高!」
荷台から身を乗り出して歓声を上げる私を、
キースが冷めた目で見る。
「全く……あれでも女か?
どこまでも食い意地が張って……」
最近のキースは堂々と私の悪口を
言うようになったが、
食べ物を前にした私にとっては
ミジンコほども気にならない。
その時、馬車がある建物の前を通りかかった。
そこは人だかりができていて、かなり騒がしい。
「ねぇ、キース!
あそこにすごい人だかりができているわ」
「ええ、そうですね。
でも食べ物屋じゃなさそうですけど?
姫には関係ないでしょう」
「あら、失礼ね!
何も私は一年中食べ物のことばかり
考えているわけじゃないわ。
だから行くわよ! キース!」
「はい、はい。行けばいいんでしょう、行けば」
ヤサぐれた態度でキースは返事をすると、
人だかりのある建物へ向かって馬車を進めた――
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「姫。もうここから先は
人混みで近づけませんよ。
諦めて行きましょうよ」
建物の前まで近づくと、キースが提案してきた。
だが、私の好奇心はすでに最高潮。
誰にも留めることなどで出来ない。
「だったら、馬車を止めて見に行けばいいのよ」
「え!? マジですか!?」
「ええ、マジよ。
その辺の街路樹で荷馬車を止めて
様子を見に行くわよ!」
「えええ? なんで俺まで! 絶対イヤですよ!」
嫌がるキースを連れて無理やり建物の前へ
連れて行き……。
「……え? 嘘だろう?」
キースがポツリと呟いた――




