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婚約破棄を目指した逃亡王女、気づけば毒舌騎士を巻き込んで二人ともお尋ね者になりました  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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2-7 劇薬の奇跡と不憫な騎士

「何ですか!?  今の悲鳴は!」


おばあさんの悲鳴を聞きつけたのか、

剣ではなく、箒を構えたキースが

駆けつけてきた。


そしてソファの上で白目を剥いて

倒れているおばあさんを見ると、

青ざめた顔で大げさによろめいた。


「ひ、姫……何てことしてくれたんですか!

これ以上厄介ごとは……!

騎士の俺でも死にかけたあの毒……

いえ! 薬を、こんなヨボヨボの

年寄りに飲ませるなんて!」


キースはさらりと失礼なことを言う。


「そんなわけないでしょう!  人を一体何だと思って……」


むっとして言い返した、その時。


「う~ん……」


おばあさんが唸り声を上げて

ムクリと起き上がった。


「……え?  い、生きてる……?」


「当たり前でしょう!」


とりあえず無礼なキースは放っておこう。


「おばあさん、大丈夫ですか?」


声をかけると、おばあさんは目をぱちくりさせた。


「……あら?  あらら……?

何だか体が羽が生えたみたいに軽いよ」


おばあさんは自分の腕や足を何度もさすり、

信じられないといった様子で立ち上がった。


先ほどまで腰を庇って丸まっていた背筋が、

ピンと伸びている。


「あらま!  目も良く見えるようになったわ。

お嬢さん、一体何を飲ませたのかしら!?

腕の痣も消えてるし、腰も膝も痛くないわ!

何だか若返ったような気がする!」


傍で見ていたキースは茫然としている。


「そ、そんな……。でも言われてみれば、

さっきより顔のツヤが良くなっている。

ほうれい線も減ってるし、

目尻のシワも消えている……」


事細かく説明するキース。

さすがに女性に対して失礼ではないだろうか?


「姫!  本当にこれ、ただの薬なんですか?

こんな奇跡を起こすなんて……

もしかして悪魔に魂でも

売り渡したんですか!?」


「はぁ!?  悪魔ですって!?

一体人を何だと思ってるのよ」


でも、まさか若返りの効果まであるとは思わなかった。

さすがにこれはかなりすごいことかもしれない。


そこへ、おばあさんが割り込んできた。


「お嬢さん、本当にありがとう。

これで元気よく働くことができるわ」


「それは良かったです。

少し……いえ、かなり刺激が強いのが

難点ですけど」


「刺激どころの騒ぎじゃありませんよ……。

もし若返りの効果まであるなんてことが

世間に知れ渡ったら……んっ!?」


突然、キースが鋭い目を窓に向ける。


「どうしたの?」


「い、いえ。今、誰かに見られていた気が……」


「なら、あれじゃないの?」


窓の外には街路樹があり、

ピンク色の鳥がじっとこちらを見ていた。


「あの鳥……? まさか……」


首をかしげるキース。


「クックックッ。おバカさんね、キースは。

鳥の視線にビクつくなんて」


「誰がビクついているんですか!」


「それより、キース。

お店の片付けは終わったの?」


キースが手にしている箒を指さした。


「いえ?  まだですが?」


「だったら早く片付けてきなさいよ! 

おばあさんがお店を開けられないでしょう!?」


「! 分かりましたよ!  

片付けてくればいいんでしょう!?」


キースはプンプン怒りながら

店の方へ戻って行った。

まったく、短気な騎士だ。


キースが出ていくと、

私はおばあさんに向き直った。


「おばあさん、この残りの薬。

ほんのお詫びです、受け取ってください」


「ええ!?  いいのかしら?

こんなすごい薬をもらって」


「はい、勿論です。ただし飲むときは、

倒れてもいいように安全な場所で

飲んでくださいね」


これだけは念押ししておかないと。


「お詫びなんていいのに……ありがとう」


笑顔で受け取るおばあさん。


「ところでお嬢さん。昨夜ルビーを

奪っていった連中だけどね。

実はまだ続きがあって、

『これを売ったのはサラ王女だろう?』と

言ってきたのよ」


「え?」


さすがに能天気な私でもドキリとした。


「でも、そんなことは知らないよと答えたけど……

本当はお姫様なんですよね?

さっきの彼がそう呼んでいたので」


「あ、あの……」


どうしよう、「姫」という名前ですと

答えようかな。


迷っているとおばあさんはフッと笑った。


「いいんですよ。答えなくても。

誰にも言いませんから」


「おばあさん……だけど

ルビーが……」


「大丈夫。こんなに元気になれたのだから

これからたくさん働いて稼いで見せますよ。

でも、あまりこの町には長居しない方が

いいかも。

連中が探しているかもしれませんからね」


気持ちも若返ったのか、

おばあさんは茶目っ気たっぷりに

ウィンクしてみせた。


****


 おばあさんと店に戻ってみると

割れた窓ガラスは片付けられていたが、

キースの姿が見えない。


「あら?  キースはどこかしら?」


「お連れさんなら外にいるようですよ?」


おばあさんが外を指さす。


外に視線を向けると、

不機嫌そうな顔で御者台に座る

キースの姿があった。


そこでおばあさんと一緒に店の外へ出て、

キースに声をかける。


「キース。店の片づけは終わったのね?」


「ええ、でも割れた窓ガラスだけは

どうしようも無かったですけどね」


「それなら大丈夫。

もうガラス屋さんに修理をお願いしているから」


おばあさんが笑顔で答える。


私は荷馬車に乗り込むと、

おばあさんに別れの挨拶を告げた。


「さよなら。おばあさん」


キースはペコリと頭を下げる。


「お元気でね。二人とも」


こうして私たちはおばあさんに見送られながら

宝石店を後にした。


その時。

街路樹の枝に止まった一羽の鳥が目に入った。

鮮やかなピンク色の羽。


「……あら、さっきの鳥かしら。

それにしても綺麗な鳥ね。

ピンク色なんて珍しい」


私が呟いた瞬間、

キースの手綱を握る手が僅かに止まった。


「……出発しましょう」


低く短い返事だけを残して

馬車は動き出した――

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