2-6 私の名推理は完璧です! そして騎士は一人で瓦礫を片付けます
五分程荷馬車に揺られていると、
昨夜訪れた宝石店が見えてきた。
すると窓が粉々に砕けており、
昨夜とは明らかに様相が違っている。
「キース! あれを見てちょうだい!
私、分かってしまったわ」
シュバッと店を指さした。
「ええ、そうですね。
窓ガラスが割れていますね」
手綱を握りしめながら返事をするキース。
「犯人はあの窓ガラスを割って
店内に侵入したに違いないわ!」
「……」
自信たっぷりに言うと、
何故かキースは目を見開いて私を見つめた。
「何? どうかしたの?」
「……驚いているだけです」
「まぁ、ひょっとして私の名推理に驚いて?」
「いえ、分かり切ったことを堂々と
口にする姫に驚いているだけです」
「はぁ!? もしかして私を馬鹿にしてるの!?」
「今頃気付いたのですか!?」
二人でギャアギャアと荷馬車の上で
言い争いをしていると、
おばあさんが箒を持って外に出てきた。
その顔には大きな痣があり、
腰を庇うようにして力なく掃除をしている。
「おばあさん!」
荷台から飛び降りると、
おばあさんの元へ駆け寄った。
「あ! 姫! また荷台から飛び降りるなんて!」
背後でキースが喚いているが、
そんなことはミジンコほどにも気にならない。
おばあさんは私に気付いて笑顔を向けてきた。
「あら……昨日の可愛らしい
お嬢さんじゃないですか……」
その顔には青い痣ができている。
「大丈夫ですか!?
酷い怪我をしているじゃないですか。
強盗に入られたんですよね?」
「ええ。そうなんですよ。
戸締まりをしているところへ、
いきなり強盗が扉を開けて入って来たんですよ」
「え? 扉を開けて……?」
ふと視線を感じて振り向くと、
なぜかキースが荷台の上で「それ見たことか」と
勝ち誇った表情を浮かべている。
「それで泥棒を追い払おうと、
その辺の宝石を投げた拍子に
転んで窓ガラスを割ってしまったのよ、
恥ずかしいわね」
「……」
泥棒が割ったんじゃないんかーい!
私の名推理を返してほしい。
「泥棒たちはカウンターの上にある
赤いルビーを奪って、
『この宝石をどこで手に入れた』と
聞いてきたから、お嬢さんと騎士から
買い取ったと話したのだけど……」
「はぁ……最悪だ……」
キースは両手で顔を覆い、天を仰いでいる。
自分たちの情報が犯人に筒抜けに
なったことがショックなのだろう。
けれど、私は違う!
「何言ってるの、最悪なのはおばあさんの方でしょ?
キース! ぼさっとしてないで、
そこから降りてきて、
この瓦礫を片付けなさいよ!」
「はぁ!? なんで俺が……」
「この状況を見て、おばあさんが
気の毒だと思わないの!?
それでも騎士? その鎧は飾り物かしら?」
「うっ」
痛いところを突かれたのか、
キースはプルプル震え……。
「分かりましたよ! 片付けます!
片付ければいいんでしょう!?」
荷台からひらりと降り、
「なぜ俺がこんなことを……」と
小声で文句を言いながら
その辺の街路樹に手綱を結び付けている。
「おばあさん、まずは傷の手当てをしましょう。
キース、あとはよろしくね」
「え!? まさか本当に俺一人で片付けるんですか!?
待ってくださいよ!」
キースの訴えを完全にスルーして、
私はおばあさんに肩をかして、店の中へ入って行った。
****
幸い店内はあまり荒らされてはいないようだ。
店の奥にある居住スペースまで連れて行き、
窓際に置かれたソファに座らせてあげた。
「大丈夫ですか? おばあさん」
「ええ……イタタタ。宝石を投げたときに、
腰を捻ってしまってね。
ただでさえ腰痛気味だったのに……」
「おばあさん……」
強盗が来たのも、きっと
私とキースがこの店で宝石を売ろうと
決めたせいだ。
後で2人で反省会をしなければ。
でもとりあえず今はおばあさんの手当てが先だ。
「おばあさん。
これ、少し苦いけど飲んでください。
魔法の薬で、一粒飲めばたちどころに
怪我が治りますから」
昨日キースに渡したものと同じ、
自慢の錬金薬を一粒取り出した。
「あら、親切なお嬢さんだねぇ。
それじゃ、遠慮なくいただきますよ」
おばあさんは疑うこともせず、
ひょいと口に入れた。
「う! ……あううううう!!」
次の瞬間。
おばあさんは白目を剥いて、
そのまま後ろへぶっ倒れた――




