2-5 この人でなし! と叫ばれる騎士、今日も肩身が狭い
「キース……もしかして、あの話。
昨夜私たちが売りに行った
宝石店の話じゃないかしら?」
パンにバターをたっぷり塗りながら
キースに尋ねる。
「老婆の店に赤い宝石……
間違いないでしょうね。
それにしても、鈍い姫なのに
よく気付きましたね」
キースはフォークに刺したベーコンを口に放り込む。
「何よ、それ。褒めてるの?
馬鹿にしてるの?」
スープを飲み干し、キースを睨む。
「別に、どうでもいいでしょ、そんなこと。
それより食事を終えたらどうするんです?
当然、すぐ出発して次の町へ行くんですよね?」
キースが口にパンを放り込んだ。
「え? 何言ってるの?
おばあさんの様子を見に
宝石店へ行くに決まってるでしょう?」
「……は? うぐっ!」
予想通り、キースはパンを喉に詰まらせて
激しく咽せ込む。
「キース!? しっかり!」
私は親切心から、
彼の背中をドンドンと力一杯叩いてあげた。
「げほっ、ごほっ!
な、何てこと言うんですか!?
あの店が襲われたってことは、
俺たちが売った『赤い宝石』の価値に
気づいた連中が、
ルディアの街を嗅ぎ回ってるって
ことなんですよ!?」
顔を寄せ合って、
小声でやりあう私とキース。
「だからよ! あのおばあさん、
怪我をしたって言ってたじゃない。
私が売った物のせいで誰かが傷つくなんて
寝覚めが悪いわ」
「寝覚めが悪い……? どの口が言うんですか。
血色が良さそうだし、食欲旺盛。
むしろすっきりしているように
見えますけどね。
それよりもさっさとこの町を出て
次へ向かうべきです」
キースの言葉に軽くプチッと切れる。
「何ですって! それでも騎士なの!?
いえ、畜生ね! この人でなし!」
この言葉に、周囲で食事をしていた客たちが
昨日にも増して冷たい視線をキースに向ける。
「わー! 人前でなんてこと叫ぶんですか!」
「何度でも言ってやるわ! ムゴッ!」
キースに口を塞がれた。
「分かりました、行きます。
行けばいいんでしょう?
だから人前で騒がないでくださいよ!」
「フゴフゴッ。フゴーッフゴゴ
(そうよ、分かればいいのよ、分かれば)」
私はコクコクと頷いた。
こうして、キースを連れて宝石店に
様子を見に行くことが決定した――
****
支度を終えて宿屋を出ると、
既に荷馬車の上には不機嫌極まりないキースが
鎧姿で手綱を握っていた。
「お待たせ、キース」
「はい、待たされました。
早く乗ってください」
こちらを見ようともしない仏頂面のキース。
さすがに穏便な私でも、
この態度にはイラッときた。
「ちょっと。前から言おうと思っていたけど、
どうして手を貸してくれないのかしら?」
「は? だって一人で乗れるでしょう?
降りるときは荷台から飛び降りるくらいだし。
は~……」
キースはこれ見よがしに大きなため息をつく。
まったく何という態度だろう。
キースの胸につけた、
ララお姉様の親衛隊の証であるバッジが
朝の日差しでキラリと輝く。
……きっとこれがお姉様なら
「どうぞ私を踏みつけてお乗りください」
と言って地べたにひれ伏すに違いない。
妄想に浸っていると、キースが声をかけてきた。
「何やってるんですか?
宝石店に行くんでしょう?
さっさと乗ってくださいよ。
それとも歩いていくのですか?」
「乗るに決まってるでしょう!」
木枠に手をかけると、
昨日作り替えたばかりのスカートを
翻すように鮮やかに乗り込む。
「……」
その様子を、なぜかキースが凝視している。
「何? まだ何かあるの?」
「え? い、いえ! なら出発しますよ」
キースが手綱を緩めると、
馬はカッポカッポと足音を立てて進み始める。
渦中にある宝石店を目指して――




