2-4 毒舌騎士の嘆き「一日中鎧姿でいるのは めちゃくちゃ疲れるんですよ!?」
――翌朝。
ぐぅうううう~。
お腹が鳴る派手な音で目が覚めた。
「……お腹空いたわ……昨日、
錬金術を使いすぎたかしら?」
城にいた頃は、
常に私の周囲には食べ物が溢れていた。
お腹が空けば、あちこちに置かれた
菓子や軽食に手を伸ばすだけ。
「これからは、常に非常食を
携帯しておくべきね」
ベッドから起き上がると、
寝間着から着替える。
これは昨日着ていた服だけれど、
何を隠そう。
昨夜、寝る前に錬金術を使って、
汚れを落とすついでに新しいデザインの
服に作り直したのだ。
袖のフリルが少しふんわりして、
スカート丈は気持ち短め。
裾のレースも可愛くなった。
「フフフ……怖い、
私は自分の才能が怖いわ!」
真新しい服にウキウキしながら
着替えを終えると、
勢いよくカーテンを開けた。
眩しい朝日が顔を射す。
「今日も快晴ね……絶好の馬車旅日和だわ!」
壁の時計を見れば、
時間は七時をちょっと過ぎたところ。
「……下は食堂だったわね……」
お腹をさすりながら部屋を出た――
****
階下に降りると、食堂には
男性客たちがチラホラと座っていた。
「あ、お客様、おはようございます」
この宿屋の女将さん――
四十歳くらいだろうか。
忙しそうに料理を運びながら声をかけてきた。
「おはようございます。
食事、できますか?」
「ええ、もちろんですよ。
今ちょうど焼きたてのパンがあがったところです。
……あら? お客様、そんな綺麗な服
昨日着ておいででしたっけ?」
嬉しい! 気付いてもらえるなんて!
「はい、着替えを持っていたのです。
魔法の収納アイテムを持っていますので」
私は口から出まかせを言った。
実際、マジックショップに行けば
そういうアイテムも売られているから、
嘘としては上出来だ。
「あら、そうだったのですね?
それでお連れのお兄さんは?」
「兄……? あ、兄ですね!?」
そうだった、私とキースは「兄妹」という
設定にしているんだった。
お腹が空きすぎて、
キースの存在ごと設定を忘れるところだったわ。
「旅の疲れが出ているみたいで、
多分まだ寝てると思います」
「あら、そうなのですか?
それじゃお兄さんと一緒に食事を――」
「いえ! 先に食べてます!
私、お腹すきすぎて今にも倒れそうなので!」
「あら大変。それじゃ空いてる席にどうぞ」
「はーい」
私は窓際の席に陣取った。
窓の外を眺めていると、
やがてトレーに乗った料理が運ばれてきた。
焼きたてのパンにふわふわのオムレツ。
ジャガイモのスープにカリカリのベーコン。
そして彩り鮮やかなサラダ。
「うわぁ~美味しそうですね。
いただきます!」
「フフ、ごゆっくり」
女将さんが去るやいなや、
私は食事にかじりついた。
「うん、美味しい!
焼きたてパンは最高ね!」
そこへ――バタバタバタバタ!
騒がしい足音が近づいてきた。
「おい!」
真上から声が降ってきて、見上げてみれば
息を切らしたキースがいる。
その顔は血相を変えていた。
「あら、おはようキース」
「おはようじゃないですよ!
一人で先に食事なんてありえないでしょう!?
目が覚めたので部屋に迎えに行ったんですよ!」
文句を言いながら向かい側に座るキース。
麻のシャツにリネンのズボンといった姿だが、
あちこち汚れが目立っている。
「扉を何回ノックしても返事はない、
痺れを切らして開ければもぬけの殻。
どれだけ驚いたと思ってるんですか!」
「まぁキース、私の部屋を覗いたの?
大胆ねぇ」
「はぁ!?
論点をすり替えないでくださいよ!」
そこへ女将さんがやってきて、
キースの前にも料理を置いた。
「はい、お兄さんもどうぞ。
兄妹喧嘩もほどほどにね」
「は、はぁ……」
複雑な顔で返事をするキース。
女将さんが去ったところで、
私は彼を促した。
「ほらほら、
冷めないうちに食べちゃいなさいよ」
「はぁ……全く……」
キースはため息をつくと、
ようやく食事を始めた。
「……ところで姫」
「何?」
私も食事をしながら返事をする。
「その服……よく見ると昨夜と違いますね。
着替えでも持ってきてたのですか?」
「まさか。錬金術で作り替えたのよ」
「……へ? 何ですって?」
キースがカチャンとフォークを置く。
「だから、錬金術で作り替えたの。
旅に出るのに何着も持って歩けないでしょ?」
「え? だ、だったら……
どうして俺にもやってくれないんですか!
正直言って、一日中鎧姿でいるのは
めちゃくちゃ疲れるんですよ!?」
「あら、そうなの?
好きでその格好してるのかと思ってたわ」
「そんなわけないでしょう!
こっちはまさかこのまま旅に出るとは
思ってもいなかったんですよ!?」
自分の胸をバンバン叩くキース。
本当にうるさい男だ。
私はゆっくり食事を楽しみたいのに。
その時。
隣のテーブルから不穏な会話が聞こえてきた。
「……そういえば、知ってるか?
昨夜、この近くにある宝石店が
襲われたらしいぞ」
「ああ、俺も聞いた。
高齢の女性店主が怪我をしたらしいな。
貴重な赤い宝石を盗まれたって言ってたらしい」
「「え……?」」
私とキースは、同時に顔を見合わせた――




