2-2 小さな宝石店と不穏? な影
星が夜空に瞬き始める頃――
ガタガタと揺れる荷馬車の上で、
キースが突然身を乗り出した。
「あそこです!
小さな宝石店があります。
派手じゃないし、人目にもつきにくい……
ここで例の物を売ることにしましょう」
石造りの立派な建物が立ち並ぶ中、
こじんまりとした店を発見した。
「いいわね。さっそく行きましょう!」
キースは馬車を路肩に停め、
私たちは二人で降りた。
周囲をキョロキョロと警戒するキースの
後ろに続く。
――カランカラン
ドアベルを鳴らしながら店内に入ると
中は薄暗く、古びた棚に
さまざまな宝石やアクセサリーが並んでいる。
「いらっしゃいませ~。どんなご用でしょう?」
カウンターの奥から、のんびりした声が聞こえた。
現れたのは、白髪を丁寧にまとめた
優しそうな笑顔のおばあさん。
七十歳は超えているだろうか?
怪しい雰囲気は全くない。
私はポケットから、
赤く輝くクリスタルを十粒取り出した。
「これを買い取っていただけますか?」
おばあさんはクリスタルを手に取り、
老眼鏡越しにじっくりと眺めた。
「まあ……なんて綺麗な赤色なの。
大きさも揃ってるわね。
これはルビーかしら? ずいぶん上質だわ」
「これはクリスタルです!」
「ゴホッ!」
キースが私の後ろで、
小さく不自然な咳き込み方をした。
おばあさんは少し考えた後、
にっこりと笑った。
「そうねぇ……この大きさなら、
一個一万ジュエルでどうかしら?
十個で十万ジュエルね」
私は即座に頷いた。
「それでいいです!」
十万ジュエルもあれば
お腹いっぱい食事ができるし、
その気になれば宿にも泊まれる。
私はこう見えて、世間のお金の相場が分かる
賢い王女なのだから。
「じゅ、十万ジュエル……ば、馬鹿な……
本当は一個で国が……フギャッ!?」
キースが奇声を発する。
余計な話ができないように、
思いきり足を踏んづけてあげたからだ。
おばあさんは嬉しそうに、
小さな袋にお金を詰めていく。
「ありがとうねぇ。お若いお二人さん、
こんなに素敵なクリスタルを売ってくれるなんて。
旅の資金にでもするの? 気をつけてね」
「ありがとうございます!」
私はにこやかに礼を言い、
キースの腕を引っ張って店を出た。
外に出た瞬間、キースが私の耳元で必死に囁く。
「姫……あれは本物のドラゴナイトですよ?
十万ジュエルで売るなんて……。正気ですか!?
しかもあの店主、何も知らないのか……?」
「ふふん。結果オーライじゃない。
おばあさんは喜んでくれたし、
私たちは軍資金が手に入ったわ。
さあ、早く食事に行きましょう!
本当にお腹ペコペコなんだから!」
「やれやれ……」
キースは深い溜め息をつきながら、
私の後について歩き始めた。
――が。
「!?」
キースが鋭い勢いで背後を振り返り、
凝視する。
「どうしたの?」
「い、いえ……今、誰かの視線を
感じた気がして……」
「ふ~ん、そう? 私は何も感じなかったけど?
自意識過剰ね?」
「はぁ!? そんなんじゃないですよ!!」
妙にムキになるキース。
「そんなことより早く、お肉!
お肉を食べに行くわよ!」
私はさっさと荷馬車に乗り込んだ。
「やれやれ……全く能天気な姫だ」
キースは一度溜め息をつくと、
御者台に乗り込む。
ガラガラガラガラ……。
夜の街を荷馬車は進む。
香ばしい肉料理の匂いを求めて。
背後に怪しげな影が迫っているとも
知らずに――




