1-19 私を飢えさせたら、首が飛ぶわよ?
先ほどの商店街を潜り抜け、
私たちはようやく大通りへとやって来た。
「ふぅ、ここまで来れば安心ね」
既に太陽は真上に昇り、
そろそろ私のお腹も限界を
迎えようとしている。
「……ところで姫。
先ほどの怪しげな薬……
もしや毒ではないでしょうね?」
キースがジロリと
疑いの眼差しを向けてくる。
「はぁ!? 何言ってるの!
私がそんなことするとでも
思っているの!?」
あんなに貴重な秘蔵の薬を
渋々飲ませてあげたというのに。
あまりの言い草に、私は憤慨した。
「思ってますよ!
今まで何回被害に遭ってると
思ってるんですか!」
「男のくせにちっさいわね~。
わざとじゃないわよ。
それに私のお陰でピンチを
切り抜けられているのだから
結果オーライじゃない」
「結果オーライって……」
尚も何か言いたげなキースだったが、
この際無視することにした。
「ねぇ、それよりも早く馬車を
見に行きましょうよ。
私、本当にお腹ペコペコで
倒れそうなんだから」
「はぁ!? まだ食事を終わらせて
数時間も経っていませんよね!?」
キースが驚愕に目を見開く。
「仕方ないでしょう。
錬金術を使うとお腹が空くのよ」
「……え? そうだったのですか?」
「そうよ。だから覚えておいて、キース。
私を絶対に飢えさせてはいけないわ。
……自分の首が大事ならね」
「ひっ! わ、分かりましたよ!
なら早く馬車と、
ついでに食べ物を確保しましょう!」
「そうこなくっちゃ!」
私はボロボロのマントを
翻すキースの後に続いた――
****
――午後三時。
ガラガラガラガラ……。
軽快な車輪の音が町外れに響き渡る。
「あ~あ……私が手綱を握りたかったのに」
私は手綱を握りしめるキースの隣で、
買いたてのマフィンを頬張りながら
不満を漏らした。
「何言ってるんですか。
手綱を握ったこともない人に
任せられるはずないでしょう。
……それで、どこへ行きたいのでしたっけ?」
キースは憮然とした表情で
前を見据えたまま尋ねてくる。
「まずは王都から離れないと
いけないからね。
とりあえず、ここから一番近い隣町を
目指しましょう」
「はいはい……隣町、ルディアですね」
重い溜め息をつくキース。
「何だか元気がないわねぇ。
お腹空いてるの?
一つ分けてあげましょうか?」
私は紙袋からマフィンを取り出し、
キースに差し出した。
「……」
キースは無言でそれを受け取ると、
すぐさま口に放り込んだ。
「何だ、やっぱりお腹が空いていたのね?」
「そんなんじゃないですよ!
単に眠いだけですから!」
「あら? やっぱり眠いのね?
だったら私が手綱を握ってあげるわ~!」
私はウキウキしながら、
キースの手元からグイッと手綱を引っ張った。
「ば、馬鹿! やめろ!!」
すると――
「ヒヒーン!!」
馬がいななき、
急に速度を上げて走り始める。
「は、走ったわ! すごい!」
「やめろって言ってるだろー!!」
制御を失った馬車は
猛スピードで町外れを駆け抜けていく。
「ねぇキース! 止め方ってどうするの!?」
「そんなの知るかーっ!!」
二人の悲鳴と怒号を乗せ、
次の目的地ルディアへ向かって――




