42 実は圧が増している
カイルの性格やっぱり悪いんじゃない?
お助けキャラはどうした。あ、ヒロイン限定か。
そんなどうでも良いことが頭をよぎる。
それにしても、授業さぼるつもりだったのか。適当に体調不良として処理するつもりかもしれない。
「サリアとタリアの勉強をする機会まで奪うつもりですの?」
言外に、私は付き合うぞと伝える。サリアとタリアをダシにしてしまった罪悪感は多少あるが、本音でもあるので許して欲しい。
「それもそうですね。少し話をしてきましょう」
ここで待つようにと言い残し、カイルはサリアとタリアの元へ。
時間が経つにつれてサリアとタリアの背後から怒りのオーラが立ち上っている、気がする。
暫くして、授業開始のチャイムが鳴り終わる頃にようやくカイルが戻ってきた。
サリアとタリアも一緒にサボらせることになったらしい。なんか申し訳ない。
「さて、ではマーリアノルト様とコーデル嬢の了解も得られたことですし、授業時間分、たっぷりと話が出来ますね」
嘘臭い笑みでカイルが腕を組み、近くにあった机に軽く凭れかかる。多分それ行儀悪いぞ。
「何かしらの認識を擦り合わせたいのでしたっけ?」
さっきまでの話を踏まえると、過去のエリエルがしでかしたであろうことを察するに、我が儘・横暴・生意気・碌でなし辺りか。
流石にいじめっ子までは私の口から言って良いか分からない。しかし、残念ながら私はエリエルのことを、<ドキラブ♡恋する魔法学園>のゲームに出て来た部分しか知らない。
さっき思い付いたのは、あくまで私の予想の範囲内の認識だ。
もしカイルの認識とずれていたら、全部すっとぼける所存。
「マーリアノルト様が周囲からどのように見られているのかを、ご自身で理解していただけているのであれば必要ないのですがね」
眉を下げ困ったように言うカイルの言葉に毒がある。というか毒しか無くない?
「我が儘、横暴、碌でなしというところかしら」
カイルが目を見開く。なんだその、まさか知っていたとは! とても言わんばかりの顔は。
記憶は無くとも察することは出来る。第三者目線で見たらきっと、流石のエリエルだって気付いた筈だ。
第三者目線で見ようとせず、自身の気持ちに素直だからこその悪役令嬢、エリエル・マーリアノルトなんだろうけれど。
ああ、そのことをカイルも分かっていたからか。
「後はそうね。エリエル・マーリアノルトはルドア様の婚約者に相応しくない。家柄だけで居座っている女だ、とか?」
カイルの、間抜けに開いた口を見て確信する。
エリエル、本気で自分の他者の評価を気にしていないし、きっと気付いてすら居なかったのだろう、と。
1周回って幸せそうにも思えるが、ゲームのように破滅すれば一瞬で転落する脆く危うい状態。マーリアノルト公爵家という巨大な権力を持つ家だったからこそ、今まで保っていたとも、ここまで悪化させてしまったとも言える。
憐れだ。言葉に出すつもりは無いけれど。
「……まさか、昔から分かった上でわざと?」
小さな声。カイルが社交スマイルを完全に引っ込め、真剣な顔をしている。
「流石にそれはないと思いますわ」
駄目だ、私の声が全く聞こえていない。
何か、誤解が生まれている気配がする。
「ではまさか……」
「これで私の認識についてはよろしくて?」
少し待ってみたが、中々戻ってこないカイルを大きめの声で呼び戻す。もう誤解とかどうでもいいや。
「――っ! ええ。流石、マーリアノルト公爵家のご令嬢です」
「ありがとう」
そこで何故家名を付ける必要があるのかは分からないが、まあ現実に戻ってきたので良しとしよう。
「で、まさかこれだけの為に私とサリア、タリアの時間を奪った訳じゃ無いでしょうね」
流石に、これで話は終わりって言われたら授業をサリアとタリアにサボらせる程じゃ無いだろうと、文句を言わせていただきたい。
「それは勿論、もう一つお話があります」
戻ってきたカイルの胡散臭い笑顔に、やっぱりさっきの発言取り消して授業に遅刻してでも行くなり、部屋に行って時間潰すなりすれば良かったと後悔する。
「何故ミズキ嬢に付きまとっているのですか?」
事実のみを告げた答えならば、ここは私にとってミズキがヒロインの恋愛ゲームの世界で、ルドア王子筆頭に恋愛イベントが沢山あって、そのイチャラブに至るまでと至ってからを見たいから。
単体ならば興味は無い。cpを見るのが好きなんだ! 特にルドア王子×ミズキが最推し!
と言った所で信じて貰えないだろうし、ただの頭ヤバイ奴になってしまう。適当に何かいい訳を考えなければ。
「それは」
「それは?」
ふっと、ミズキが魔法学園に入るきっかけを思い浮かんだ。
「それは、庶民であり、希少な聖属性の魔法の使い手だからですわ」
どうよ、このありがちな設定。咄嗟に捻り出したにしてはそれっぽく聞こえるでしょう。
そういえば夜会でも王妃様からミズキ嬢を気にかけて欲しいって、ルドア王子経由で聞いたことも思い出した。
「王妃様にも頼まれましたしね」
「……入学直後からマーリアノルト様がミズキ嬢の付近に居ることが多々あったとの情報もありますが?」
「最初は物珍しさからだったかもしれませんわね」
あまり深掘りはしないで欲しい。ぼろが出るだろうが!
「まあ、有り得ない話では無い……」
気持ち悪いくらい笑顔を表に出したまま、本音らしきものを呟くカイル。
「ちなみに、マーリアノルト様が積極的にミズキ嬢に関わらない理由を伺ってもよろしいですか?」
言外に、何故虐めないと聞かれた気がする。
一応、ミズキが困っていたら手助けらしきことはしたんだけれど、そこは聞かれていない雰囲気だ。
しかし困った。ここで関わる必要が無いと答えれば、王妃様からの言葉に反すると捉えられるかもしれない。さっきは助けてくれた事が、今は足を引っ張ってくる。なんてこった。
「そうですわね……」
無理矢理、それっぽく言うなら身分差か?
「公爵家の私に長時間相対することが出来る程、庶民の出であるミズキさんの肝が据わっている保証がありませんもの」
やっぱりかなり無理がある設定だな。苦しすぎる。
そんな私の思いを知ってか知らずか、カイルの頬がピクリと動く。
「……………………そうですか」
じっくり30秒は溜めてから、絞り出すようにカイルが声を出した。
これは押し通せたのか通せていないのか、どっちだ。




