41 vs カイル・フレンディット
「さて、時間もあまり余裕がありません。ですので率直に失礼致します」
「ええ、どうぞ」
サリアとタリアからの熱視線を左側で受け止めながら、向かい合うカイルに続きを促す。
内心何を言われるのかと、冷や汗だらだら。あくまでイメージだけれど。
「マーリアノルト様、貴女は一体何を目論んでいるのですか」
「…………はい?」
ん? ちょっと一瞬何を言われているか分からず、間が空いた。
「貴女の今までの経歴から言って、ここまで大人しいのはあまりにも不自然です。それくらいは自覚していて欲しかったのですがね」
今までの、経歴。それは私ではなくエリエルの行ってきた事の解釈で良いだろうか。そんな気はする。けれど、さっきの言葉でそう判断してしまって良いのか分からない。
肩をすくめたカイルの言葉は続く。
「それに、表立って動いてはいないようですが、ミズキ嬢の後をコソコソと追いかけたり、何故かマーリアノルト様が不自然場所で立ち止まったと思ったら、ミズキ嬢が後々現れる。そのような事が相次いでいるのは把握済みなのですよ」
心当たりがありすぎる。
イベントに立ち会う為の行動だ。それが原因で今、カイルに多分深読みされてこんな事になっている。そんな気がする。
カチコチと、壁掛け時計の針が鳴る。
ゲーム通りのエリエルなら、先頭に立ってヒロインを虐め陥れようとするのだから、入学式前までのエリエルを知るカイルの疑いは当然か。
そこまで考えてなかったよ。だってヒロインもとい、ミズキの恋が一番重要だし。
「考えすぎでは?」
取り敢えず事実を伝えてみる。
「マーリアノルト様、私はルドア殿下よりは動きやすい立場にあります。ですので、入学後から現在までのマーリアノルト様の行動歴を紙面に残すことも可能なのですよ?」
多分何か、脅されている気がする。証拠があるんだぞ、と。
ストーカーをしてしまったことは認めよう。ただそれはミズキ×攻略対象との間に起きるイベントを見逃さない為だ。
……現実で私をストーカーする人間にこんなこと言われても、怪しいとしか思わないわ。
ここはしらを切ってみよう。
「その紙面の内容に、何か問題でも?」
「いいえ? ただ、今までは問題が無くとも、これからもそうとは限りませんので」
釘を刺した、と。ストーカーは今の所、無罪判決が出ている解釈で良いのか?
「フレンディット様とルドア様のお二人は、私がミズキさんに何かするとお思いですのね」
口に指を揃えた手を添えてみる。
「いえいえ、滅相も無い」
嘘吐け!
「では、先程の言葉は?」
「もしも、万が一。それを考えるのは、上に立つ者の義務ですので」
うむむ。これでは話は平行線になってしまう。と言うか既になっている。
口で勝てない。
そりゃそうだ。だってカイルは約15年間貴族として生きてきた。舌戦だって沢山経験して来ただろう。
でも私が貴族デビューしたのは数ヶ月前。それより前に28年間生きてはいたが、庶民だったし。舌戦とかそれ程繰り広げる展開ある人生では無かった。
どうしようかな。本当に。
黙り込んだ私をどう思ったのかは知らないが、カイルの視線が外れる。
「ご理解いただけていると幸いです。もう少し互いに認識を擦り合わせたい所ではありますが」
そこで言葉を切ったカイルが見たのは時計。つられて私も壁掛け時計を見上げる。
「残念ながら、そろそろ次の授業が始まってしまう」
って、後3分しか無い!?
「このままでは遅刻確定ですね。……私としたことが」
肩をすくめたカイル。それ本音じゃないだろう。何となくだけれど、話し合いの時間を手に入れる為に、わざとギリギリまで時間を伝えなかった雰囲気が。
「折角ですし、サボってしまいましょうか」
「……わざとね?」
「そんなまさか」
良い笑顔でカイルが笑った。
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