40 無駄に煽っているようにも思えたよね
まさかの主人公である筈のヒロインも、攻略対象であるヒーロー達も差し置いて、悪役令嬢筆頭とメインヒーローのお助けキャラが魔法大会の出場者に選ばれてしまうとは。
おかしいでしょ!?
そんな内心大混乱真っ只中な現在。
「マーリアノルト様、少しお時間よろしいでしょうか」
そうにこやかに声をかけてきたのは、カイル・フレンディットだった。休憩時間になった途端に話しかけられるとは思っておらず、一瞬躊躇ってしまう。
というか、私は一人静かに混乱することさえ出来ないのか。
「……ええ、よろしくてよ」
なんとかそう答えた私は少しだけ、口の端が引き攣るのを感じた。きっと公爵令嬢としては不合格だろうな、と現実逃避をしたくなる。
カイルはどうやら王子とは別行動らしい。相も変わらず、表面的に貼り付けた笑顔のせいで、感情の読めない不気味な瞳が私を射抜く。
「では、移動致しましょう。ここでは少し……」
ここで話せない事ってなんだよ、怖いわ。などと言える筈もなく二つ返事で了承する。てくてくと着いていくと、かなり校舎の中でも奥まった空き教室へと案内された。先に教室内へと入ったカイルが、埃1つ無い机に手を置き振り返る。
「まずは、ここまでご同行いただきありがとうございます。マーリアノルト様との本題の前に1つ、コーデル嬢方に質問が。前回のことは覚えていますか?」
何の迷いもなく、さも当然のように付いてきていたサリアとタリアが、カイルによる突然の、しかもあやふやな質問に眉を顰める。まあ、見慣れていないと分からない程僅かではあったけれど。
「フレンディット様、大変申し訳ございませんが、もう少し詳しい内容をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「いや、伝わらなかったのであれば気にしないで欲しい。それよりも、コーデル嬢方には大変申し訳ないが、教室の外でお待ちいただいても? マーリアノルト様と2人きりで話がしたいのですよ」
タリアと目を合わせ、代表してサリアがカイルに問うた質問ははぐらかされた。それどころか、実質の出て行け宣言に、両隣で立つサリアとタリアはイラッとしたのだろう。
「フレンディット様ともあろうお方が、側近すら遠ざけ室内で異性と2人きり。それがどのような意味に捉えられるか、お分かりでしょう」
サリアは温度の感じられない瞳でカイルを見据える。
「コーデル嬢方の心配は最もだ。けれど、君達にも聞かれる訳にはいかないんだ」
少なくとも今はまだ、ね。そんな囁きと共に、カイルはサリアとタリアを見つめる。
今確実にサリアとタリアの警戒心が跳ね上がったと思う。だって私も怪しさ満点な答えでしかないなと感じたし。
無表情ながらも、訝しげなサリアが口を開くより少し早く、カイルが喋り出した。
「それに、仮にもこの国ラフテンシア王国の第1王太子殿下の婚約者であり、筆頭貴族でもあるマーリアノルト公爵家の一人娘、エリエル・マーリアノルト様に手を出せる訳が無い。同じ公爵家であるフレンディット家で、例え王太子殿下の側近をしていたとしても、変わらないのですよ。コーデル嬢方ともあろう御方達が、そんなことも分からない筈がない。そうでしょう?」
「万が一、ということが考えられます」
「まさか。決してマーリアノルト様に指1本触れずに、ただ話し合いをするだけですよ」
今度こそサリアが口を開き言葉を発する。タリアも追随するようにカイルを睨み付けた。2人の視線を受けて尚、カイルの笑みは崩れない。
そんな3人の攻防の中、ある意味蚊帳の外に位置する私はお腹辺りで組んだ指を絡ませ遊んでいます。簡単に話を纏めるならば、サリアとタリアは、私とカイルが2人きりで教室に入るのを認められないと主張し、カイルは誰にも聞かれたくない話があるから完全に2人きりになりたい、ということだろう。
なまじ私もカイルも権力があるが故に、2人きりになって室内で自由に内緒話すら出来ない、と。成る程貴族面倒臭い。
このままではらちがあかない。何より、休憩時間も有限なのだ。
要は私とカイル以外に内容が漏れず、サリアとタリアの見える範囲で話せば良いんでしょう。
「少し、よろしいかしら」
少し、の部分で語気を強めながら3人の会話に割って入る。片や社交スマイルを崩さず、片や睨んでいた剣呑さを引っ込めた6つの瞳が私へと集中する。
「私、思ったのだけれど……そもそも密室にするという話では無いのでしょう?」
カイルへと視線を遣れば、勿論と言わんばかりに頷いた。
ちょっと考えれば……いや、冷静にカイルの言ったことだけを考えれば分かると思うんだけれども。サリアとタリアは気が付いたのか、小さくあっと声を漏らす。
「内密の話とは言え、教室の扉を閉め切る必要は無いと思うわ。フレンディット様と私が声を潜めて教室の奥で会話、サリアとタリアが開けた扉の前で待機。これでよろしいのではなくて? それとも、フレンディット様の話したいことは、大声で伝えなければならないようなことなのかしら」
「いいえ、まさか。マーリアノルト様の仰る通り、コーデル嬢方に聞こえさえしなければ私はよろしいのですよ」
そもそもの話として、カイルはサリアとタリアに教室から出て欲しいとは言ったが、密室で私と2人きりになって話がしたいとは言っていない。いや、腹の底では何を考えているか分からないから油断ならないけれどね。
「……それでしたら、私達は何も言うことはございません」
サリアとタリアの、心なしか不愉快そうな声が重なった。
新年明けましておめでとうございます。
更新が大変遅くなってしまい申し訳ございません。




