38 髪型はこぶが痛くならないようにしてくれました
今日は私の破滅が確定するかもしれないルート確定日。
昨日は“公爵令嬢であるエリエル”に保健室で小さなこぶが発見されたことが大事のように捉えられ、あわやマーリアノルト公爵、つまりエリエルのお父さんの所まで連絡しそうな騒ぎになってしまった。それを何とか言いくるめ、失礼。鎮圧し、ほっと息を抜いた後ぐっすり眠ってしまい何の対策もないままルート確定日当日を迎えることとなってしまったのだ。
「憂鬱ね」
「お嬢様、如何なさいましたか」
強情な縦ロールを艶やかにする為に、侍女のシーアが髪を櫛で梳かしながら訊ねてきた。昨日こぶが出来てしまった場所を器用に避けつつ、丁度良い力加減で髪を梳いてくるものだから、寝起きなこともあって二度寝してしまいそうになる。どうやらうっかり言葉にしていたらしい。
「いいえ、何でもないわ」
「左様でございますか。ですがもし、何か異常を感じればすぐに先生方に仰って下さい。昨日のこともございますので」
「ありがとう。でも、本当に問題ないの」
「……かしこまりました」
シーアはきっと、言葉を飲み込んでくれたのだろう。それが今は有り難い。もし詳しく訊かれたとしても、ここが乙女ゲームの世界で私の破滅決定する日だなんて説明できる訳がない。
本当は納得していないであろうシーアの心遣いに感謝をしながら、寝起きよりも幾分か艶の増した縦ロールを揺らして部屋の扉を開けた。
私の側近であるサリアとタリアを引き連れて、見慣れた廊下を歩いて行く。目指すのは勿論教室だ。
最近はミズキよりも少し早く教室に着くこともある。どうやら今日は私達が1番乗りらしい。日課となっている花の花弁の付け根を見るが、やっぱり白色にしか見えなかった。花瓶から花を抜き取り光にかざせば、不思議なことに様々な色に見えないことも無いのだが、うん。やっぱり白だ。
ゲームでは、こう言ってはあれだが好感度がほんの僅かでも多い攻略対象のルートに入ることになっている。現時点で殆ど好感度が誰に対しても増えていないだろうから、ゲーム通りならば確実にバッドエンドルート行き決定にはなるけれどね。
毎日見ている光景だからか、最初は戸惑っていたサリアとタリアも私が花を見ては溜息を吐いたとしても黙って見守ってくれている。むしろ他に人が来る時には教えてくれるのだ。表情はあまり変わらないが、とても気の利く優しい娘達である。
「エリエル様、ミズキさんがいらっしゃいます」
「そう、ありがとう。では席に向かいましょうか」
いつも座っている窓際の1番後ろへ向かう。席に着いたところでミズキが教室に入ってきた。
「あっ、おはようございます!」
「ええ、ご機嫌よう」
「おはようございます」
おはように対する令嬢らしい挨拶に迷いに迷った結果、私は常にご機嫌を使うことにしている。そもそも皆、側近とかならともかく挨拶がご機嫌ようみたいなのだ。最初の内は慣れなさすぎて微笑むだけで終わってしまったこともあったなあ、と感傷に浸っている間にミズキは手慣れた様子で花瓶を持って出て行ってしまった。
「エリエル様、もし体調が優れないのでしたらお休みした方がよろしいと思います。昨日の件もありますし、如何でしょうか」
「差し出がましいことは承知しております。ただ、顔色が朝からあまりよろしくありませんでしたので」
サリアの言葉に何故か訊ねようと口を開く前に、タリアから補足が入った。自覚している以上に緊張しているのだろうか。少なくとも、昨日のこぶは関係ないと思う。ああ、朝のシーアも顔色を見て心配してくれたのかもしれないな。申し訳ない。
「いいえ、大丈夫よ。少し緊張しているだけだと思うわ。今日、魔法大会に出場する方が決まるじゃない?」
「あぁ、1ヶ月後の魔法大会の選抜は本日でしたね」
「昨日のこともありますし、エリエル様が緊張してしまったとしても仕方がありませんね。魔法がトラウマにならなければよろしいのですが」
「心配してくれるのね、ありがとう。でも大丈夫よ。魔法大会は楽しみでもあるの」
「そう、ですか」
「そう、ですか」
嘘は言っていない。そう、私は嘘は言っていない。
この魔法学園では、1ヶ月後に魔法大会がある。各学年から2人、そして教師陣から2人の計6人が選ばれるのだ。
1年生は魔法がどれだけ扱えるようになったのかを改めて確認する為、2年生は1年生の見本となるように、教師は実力を見せることで生徒達を守る力があることを示す為の大会だと、ゲーム内では説明されていた。
その選抜メンバーの中に、ヒロインであるミズキの好感度が最も高い攻略対象が1人だけ入るのだが、一体誰が選ばれるのか。
場合によっては私が死ぬルートになるので緊張してしまっても仕方が無い。
サリアとタリアがこれ以上心配することの無いように、授業が始まるまで去年の魔法大会や今年は誰になるかを予想したりと、割と楽しい時間を過ごすのだった。




