36 星が飛びました
足場が突然上下に動いたせいでバランスを崩す。
慌てて手を振り回して転けないように努力したが、思い切り尻餅をつき、続いて頭を地面に強打してしまった。あまりにも一瞬で起きた出来事に、つい固まってしまう。カイルが目を見開き、更に向こう側で魔法の練習をしている筈のミズキが駆けて来るのが見えた。
「マーリアノルト様! お怪我はございませんか!?」
「……えっ、ええ。恐らくは」
流石に驚いたらしく、声をかけるタイミングが遅くなったカイルは、怪我をしていないか確認する為に私が起き上がろうとするのを手で制する。思い切り頭を打ったからだろうか。
髪を触ると茶色い土が付いていた。魔法訓練用の服も土でドロドロだろうから、土汚れを消す方法での洗濯を侍女のシーアに頼まなければ、と痛みを感じる頭で考える。
何の気なしに動かした目は、もうすぐ私の元に辿り着く全力疾走のミズキと、そのかなり奥から小走りするルドア王子を視界に入れた。
さらに目玉だけで周りを見回すと、水魔法を教えてくれる先生を筆頭とした、各属性魔法の先生も慌てたように私の元へと駆け寄って来る所だった。
「マーリアノルト、け、怪我は無い、ですか?」
「何とも言えませんわ。今は興奮して痛みなどを正常に判断出来ていない可能性がありますもの」
最も近くに居た水魔法の先生が真っ先に私の元へと辿り着く。敬語は先生方は使わないと言っていたが、うっかり出てしまったようだ。権力を持つ公爵家のご令嬢が授業中に頭を打ったのだから当然と言えば当然かもしれない。
割と冷静な頭で、現在有り得る自分の状態を述べる。何の違和感も無かったけれど、落ち着いたら体中穴だらけ、なんてお話を昔見たことがあったしね。
「痛いところは、分からないです、よね? すぐに、医務室へ運びます。意識ははっきりと、していますし、受け答えもしっかり、出来ているので……よろしいですね?」
「ええ、勿論ですわ」
水魔法の先生の質問に、軽く首を縦に振って答える。その時、約1ヶ月前の魔力暴走のこともあり、かなり離れた位置で訓練を行っていたミズキが私の目の前に現れた。
「あ、あの! 私、怪我、治せます! もし何か、お怪我があれば……聖属性の魔法、使えるので!」
息も絶え絶えに眉を下げたミズキは、聖属性の魔法の力をほんの少しだけ私の体に、左手を握って流す。何だかミズキの魔力が巡った場所が少し温かく感じた。
「お気遣い感謝するわ。でも、大丈夫だから戻りなさい」
人に向けて、どのような種類であれ魔法を行使することを禁止されている……筈のミズキを見詰めて声を出す。ゲームでは人に向けて、例え聖属性の癒やす魔法であっても完璧に制御できるまでは使っちゃ駄目なんだ……と少し落ち込むモノローグが入っていたし、普通に考えるとそうなるだろう。
ミズキの心遣いは嬉しいが、今回は出来れば身を引いていただきたい。




