34 味は勿論絶品でしたよ
少し沈んだ場の空気を変える転機になったのが、ようやく運ばれてきた昼食だった。程よい大きさに切りそろえられたローストビーフが真っ白な皿に盛り付けされている。
「おいしい!」
私と同じ物を頼んだミズキが、ようやく覚えたテーブルマナーでどんどん料理を口に運んでいく。口一杯に放り込むことはしないが、ミズキの食べるスピードは早い。そう言えば、こういう所もエリエルが虐める恰好の的になってたな。そして攻略対象の誰かが必ず通りかかりヒロインを助ける流れがあって、お礼の選択肢で親愛度が上がる、というのがゲームではいつものパターン。イベント以外でも、ミニゲーム途中にランダムで発生するエリエルからの嫌味などもあって、いつも親愛度Maxにする為に、エリエル探ししながらミニゲームをやったようなものだ。
…………ん? エリエルまたは悪役令嬢に虐められて、そこにやって来た攻略対象の親愛度が上がる……。でも今悪役令嬢のエリエルは虐めを行わず、その側近であるサリアとタリアもエリエルの意向に合わせて行動するからヒロインであるミズキを虐めない。テオルートは親愛度が足りない為、アマリスはが悪役令嬢として登場しない。なんなら1つ上の学年なこともあって、ほぼ接点がない。ロットルートも同じく、むしろテオと一緒に時折廊下を歩いているアマリス以上に出会わない為、同じクラスのミリアが悪役令嬢になる訳がない。ミリアはミリアで、基本的には内向的な性格らしく、ゲームでは何故ライバルになれていたのかと思う程、自分からは行動しないタイプだった。あ、エリエルに誘われたから虐めに加担したのか。
ここまで思い出して、私は重大な事実に気が付いた。何故ゲームをしている時には気が付かなかったのか。
〈ドキ♡ラブ学園〉というゲーム、エリエルや悪役令嬢の虐めや嫌味無くしては、攻略対象の親愛度を上げることが出来ないシステムだ。全てのルートにエリエルが悪役令嬢筆頭として出ていることから、言えることは1つ。運営さん、エリエル・マーリアノルトに依存しすぎじゃないですかね。
現時点では、庶民を毛嫌いする一部の令嬢方がミズキに嫌味を言うことはあるが、悪役令嬢の本家であるエリエルの足下にも及ばない稚拙なもの。ミズキも少しは落ち込むが、涙で視界が滲む程ではなさそうだし、攻略対象が通りかかっても素通りしている。もしかしたら気が付いていない可能性もある。エリエルと違って周りにバレないよう地味~にしかやってないみたいだからね。エリエルは周りにも誇示するように虐めていたから、攻略対象達も見付けやすかったのだろう。下手に王家の次に権力を持つマーリアノルト公爵家を敵に回したくなくて、周りのクラスメイト達は虐めに関わりたくないだろうから、誰かにヒロインを救う役割を取られることもない。
良く出来ているようで、実際はシステムを如何に簡略にしようかと言う考えが見える気がした。
「エリエル、どうかしたのかい?」
考え事をしている間、どうやら全く手は動いていなかったらしい。純粋に疑問だという目をルドア王子に向けられた。まさか私がミズキを虐めないせいでバッドエンドルートに向かっているだなんて言える訳ない。
「少し考え事をしていただけですわ」
「考え事?」
「……次の授業、魔法の訓練の授業で何を学ぶのかしら、と」
「ああ、前回は楽しそうだったね」
「ええ、次こそはフレンディット様のように安定したウォーターボールを作って見せますわ」
一瞬びくりと肩をふるわせ固まったミズキを視界の端に入れながら、敢えて気にせず話を進める。ミズキ自身、魔力暴走のことをまだ気にしている筈だ。話は振らずに、楽しみであることだけをルドア王子の方を見ながらミズキにも伝わるように喋る。
楽しみであることに違いは無いしね。
それに、次の魔法の訓練の授業では特に問題が起こるというイベントは無かった筈。安心して魔法を学び、いつか水魔法を応用して虹を作りたいと思っている。
さて、今日の授業はどのような内容なのだろうか。楽しみだ。
ミズキの親愛度アップは、私がシステムに気が付くのが遅れたせいで絶望的と言えるかもしれない。その対策については夜……いや、早朝にでも考えようと思う。今は目の前に鎮座しているローストビーフの残りを食べきり、ルドア王子達とのお話を適当な頃合いで終わらせ次の授業に備えることを優先することにした。




