33 晴れと曇りと
「ご機嫌よう、ルドア様」
「ルドア様、こんにちは!」
「こんにちは、エリエル、ミズキ嬢。エリエルが何か困らせているようだから声をかけたのだけど、もしかして勘違いだったかな」
ミズキの、様になってきたスカートを摘まんだ淑女の挨拶と、私とルドア王子を交互に見るミズキの様子に疑問を抱いたらしいルドア王子が首を少し傾ける。一瞬ゲームの強制力が働いたのかと疑ったが、ルドア王子の困惑ぶりを見るに、そういう訳では無さそうだ。
「いえ、とんでもないです! マーリアノルト様には日頃からむしろ助けられてばかりですし、今日もお昼ご飯をいただけることになって……少しお話をしていたんです。そうだ! ルドア様もご一緒に如何ですか?」
「えっ?!」
「……そうだね、4人が良いのであれば」
「勿論です! マーリアノルト様も、コーデル様方もよろしいですか?」
下手に口出しをしない方が良いかと、敢えて黙って成り行きを見守っていたらまさかのルドア王子も同席するという展開になってしまった。これではミズキの好きな人を聞き出せないじゃないか。ルドア王子の背後に控えているカイルもミズキにありがとうと感謝を述べている。まだ私は返事してないのに。
と言っても、王族からの申し出など断ることが出来る筈もなく、快諾するしかなかった。勿論サリアとタリアも頷く。
「ところで、エリエルとコーデル嬢、ミズキ嬢はどんな話をしていたのかな。差し支えなければ教えてくれないか」
相も変わらずのキラキライケメン王子スマイルを振りまきながら問いかける。恋愛トークに入ろうとして1歩も進まないまま貴方に邪魔されました、とか言える度胸があればスッキリするのにな。言った瞬間首と胴体の永遠の別れが約束されそうなので、実際になりたいとは思わないが。
「えっと……、マーリアノルト様と気になる方についてお話ししていたんですよ!」
女子トーク感溢れる回答だけれど、それだと私がルドア王子という婚約者がありながら他の男に目を向ける女のようではないか?
果たして不敬罪になるのかならないのか、ルドア王子の器の大きさに期待するしかない。流石のサリアとタリアも驚き固まってしまったようだ。
「………………そうなのか。楽しそうだな」
ルドア王子の器は大きいのだろう。言葉に詰まってはいたが、楽しそうだなんて言葉で終わらせているのだ。不敬罪にはならないのだろう。ルドア王子の隣に座ったカイルは、じっと穴が空きそうな程私を見てくるが、気にしたら負けだと無視を決め込む。右側に視線がぐっさぐっさと突き刺さった。
「エリエル様はミズキさんが学園に馴染めているかをお聞きしたかったのでしょう。その1つの目安として、恋愛方面のことが知りたかったのではないかと」
タリアよりも先に再起動したサリアが、まだあまり働いていないのかもしれない頭をフル回転させコメントする。学園に馴染めているかを確認する尺度として恋愛を持ちうるご令嬢……ありだね。
って、そんな訳あるか!
「サリア、私は毎日花瓶の水を替えたり挨拶をしていたりと、ミズキさんが頑張っているようだから、何か理由があるのかと思って聞いただけよ? 例えば気になる方でも居るのかもしれないでしょう」
あ、駄目だ私も何を言っているのやら。
明日に迫ったバッドエンドルートのほぼ確定日。突然乱入してきたルドア王子とカイルに混乱しているのかもしれない。
「わ、私が頑張っているのは少しでも皆さんのお役に立ちたいからで……それに、学園の皆さんの殆どは婚約者様がいらっしゃるじゃないですか。平民の私に好かれているなんて知れたら、迷惑になります」
「えっ、気になる人が居ますの!?」
「い、いえ、居ませんけど……出来たらいいな、とは思ったこと、ありますけど」
私の勢いに驚いたミズキはどんどん声を落としていく。殆ど何も聞き取れない、なんてことはなく、ばっちりしっかり聞き取れてしまった。恋に憧れている純粋無垢な女の子。きっと、私の目の前に居る本物のミズキはこういったタイプの子なのではないだろうか。
「婚約というのは家同士の利益の為だったりするけれど、きっとミズキ嬢なら愛した人と添い遂げることが出来るんじゃないかな」
突然会話に加わったカイルが、ルドア王子に勝るとも劣らない柔らか優しげスマイルをミズキに向ける。えっ、何? カイルはミズキが好きなのか? カイル×ミズキもおいしいから私的には大歓迎だよ! 最推しcpはヒロイン×ルドア王子だけれど、全然応援するけど!
「えへへ、そうなったら良いなって、思ってます」
何故かミズキの表情は、私の心の中とは違ってどんよりと曇っていた。




