32 野生の○○が現れ
食堂で自分の分とミズキの分を頼み、今日は天気が良いからと外の白く輝くテラス席に座る。ピチュチュと鳴くのは何処かの木にでも止まっている鳥だろうか。
「ミズキさん、突然誘って悪かったわね。この後の予定などはなかったかしら」
にこりと優雅に微笑みながら、ミズキの目を見て話しかける。この1ヶ月で慣れたのか、ミズキがびくつくことは無くなっていた。
「あ、全然! 特に予定などは無いので大丈夫です! あの……私、お金とか持って無くて、代金をお返しするのは何年も後になってしまうかもしれないんですが、必ず働いてお返しします!」
「あら、ミズキさんの時間をいただくのだから昼食くらい私が用意するわ。お礼だと思えばいいのよ。あなたが気にする必要なんてないわ」
「そんな! マーリアノルト様にはいつも助けていただいていますし、これ以上は……」
それでもと食い下がる律儀なミズキを宥めつつ、どうやって恋愛トークに持っていくかを考える。日本に居た頃はオタ友は何人か居たが、皆自分の恋愛トークなどはせず推しcpトークばかりだった為全く参考にならない。サリアとタリアにも、ミズキの好きな人が居るのかを聞き出したいなどと説明している訳もなく、自分の語彙力とトーク術のみで話を進めなければならないだろう。
食前の紅茶を他人からは優雅に見えるよう飲む。紅茶の甘い香りが体中に広がった。
「どうしても気になるというなら、ミズキさんが今1番気になる人でも教えて下さるかしら。今日はそんな気分なの」
考えても思い付かなかったので、直球勝負に出てしまった。
ミズキは飲もうとしていた紅茶に口を付ける寸前の体勢で一瞬固まる。ピチュチュ、とまた鳥が鳴いた。
「気になる……人、ですか」
「ええ。好いた男性の1人や2人、何なら5人くらいは居るんじゃなくて?」
「い、いえ、流石にそんなに居ないですよ」
そんなに居ない、ということは、少なくとも1人は気になる人が居るのだろうか。
「なら1人は居るのかしら?」
「えっ、とぉ……あの、何故突然?」
目を泳がせ話の方向を変えようとするミズキににこりと微笑みかける。サリアとタリアが目線で何かを訴えかけてくるような気がするが、今回は無視させてもらう。
「あら? 言わなかったかしら。今日はそんな気分なの。それで、誰なのかしら?」
「そんなこと……」
さあ観念して洗いざらい吐いてしまえ! と悪役らしく高笑いしながら言いたくなった。言わないけれど。もう一押ししようかと口を開こうとした時だった。
「エリエル、無理強いは良くないと思うよ」
ルドア王子が現れた。




