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「私は全く気にしておりませんので、皆様落ち着いて下さるかしら」
ついイラッとして語気を強めてしまった。ミズキやサリア、タリアまでもが肩をびくっと震わせる。苛ついた対象は君達じゃないんだ、ごめんよ。
「ああ、そう」
「エリエル様に失礼です。カムベルト様、エリエル様に謝罪を」
「エリエル様に失礼です。カムベルト様、エリエル様に謝罪を」
こんな時でも息ピッタリのサリアとタリアのおかげで、思わず堪忍袋が切れるような状態にはならずに済んだ。
しかし、割と本気で怒鳴りそうになったので、落ち着く為に深呼吸をする。
冷静になった頭で、記憶を引っ張り出す。そうだ、アデルはエリエルとは仲があまりよろしくないんだった。
アデルの兄とエリエルの姉が夫婦なので、幼少期からエリエルと付き合いがある。昔から我が儘で傲慢なエリエルを見てきたのだ。エリエルに対してあまり良い感情は抱いていない。それは恐らくエリエルも同じで、ミズキに嫌がらせをするついでにアデルにも何かを仕掛けることが多かった。エリエルはアデルだけ名前を呼び捨てにしていたし、見下した表情をミズキは勿論、アデルにも向けていたからね。
同じ公爵家といえど、権力はエリエルの方が強いので仕方が無いのかもしれない。
恐らく、アデルは性格的にも今の態度的にも、これ以上深く関わるつもりは本人に無さそうなので、私がつっかかってもあまり意味はない。面倒臭そうに相手をされるか無視を決め込まれるのがオチだろう。
それに私は中身は三十路間近の立派な大人。一時の感情に振り回されてなるものか。
「サリアもタリアも落ち着きなさい。アデルに時間を取られるだけ無駄よ。そろそろ授業が始まる時間ですし、皆様も席に戻った方がよろしいのではなくて? 勿論、ミズキさんもよ」
あ、駄目だった。ちょっとアデルに対する怒りが言葉の端々に出てしまったが、当の本人が気にせずしれっと席に向かって歩き出しているので私も気にしないでおこう。
ミズキはまだへたり込んでいたので手を引いて立たせてあげた。ついでにミズキが握りしめていた花瓶を、笑顔を向けながら取り元にあった場所に置く。濡れた床は私がどうにかする訳にはいかないだろう。本当は雑巾などで拭きたかったが、何もせずに背を向けた。
未だに納得がいかないと顔に出ているサリアとタリアの背中を軽く押し、席へと誘導する。
椅子に座った直後、既に聞き慣れた授業開始の鐘が鳴った。
何故か全くこの件に関わってこず、教壇の上で腕を組みながら一部始終を眺めていたジーニア先生が、しれっとした顔で授業を開始する。
アデルとミズキのイベントを見逃したのは大きいが、私を巻き込んだ本来以上に面倒臭いイベントに巻き込まれるだなんて思ってもみなかった。
2次元として、いや、他人事としてアデル×ヒロインルートを見るのは楽しかったが、自分が巻き込まれるとなると面倒だ。
どうしてもアデルルートだけは応援できそうにないな、と思いながら授業を受けるのだった。




