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26 銀色に見えなくもない

親愛度が最も高いと、

ルドア・フォン・ラフテンシアなら銀色

アデル・カムベルトなら黒に近い紫色

テオ・オキシスなら赤色

ロット・レッシュならダークブラウン

ジーニア・コメットであれば青緑

に花の中心付近の色が変わります。

 ミズキが花瓶に水をくみに行っている間、ジーニア先生から花を受け取り中央付近のくぼんだ部分を覗き込む。


「そこはかとなく銀色……いや、光の加減のせいな可能性もあるか。角度を変えたら青緑にも見える気がしなくもないし、こっち向きで見たら……赤? 影の部分は灰色っていうより黒っぽい紫にも見えなくもないというか、何というか……」


「あの、エリエル様、如何なさいましたか」


「エリエル様に侍女のように花を持たせて待たせるだなんて。ご自身のお怒りを鎮めようとしていらっしゃるのでしょうか」


 遠慮がちな声をかけられ、はっと我に返った。周りを見回せばかなりの生徒が教室内に入っており、サリアとタリアが皆の目から隠してくれなければ、一人ぶつぶつ花に向かって何かを呟く危ないご令嬢になってしまう所だったようだ。



「あら、心配かけて悪かったわね。怒ってなどいないわ。ところで、2人ともこの花の中心部分は何色に見えるかしら」


 こういう時はしれっとしておけばいい。ついでに質問をすれば誤魔化せると思う。完璧な作戦だ。


「エリエル様がよろしいのであれば、私からは何も言うことはございません。花の色ですが……白……い花弁におしべとめしべの影が出来ているので、私には分かりかねます。申し訳ございません」


「私も、エリエル様のご意志に従います。……そうですね、サリアと同じく、私にも何色かは分かりませんね。申し訳ございません」


 サリアに続き、タリアも花を覗くが色は分からなかったらしい。

 まだ親愛度が低すぎるのだろうか。


「それにしても、ミズキさん遅いですね。水を花瓶に入れて持って来るだけの筈ですが」


 確かにそうだ。生徒の集まり具合からして、もうすぐ授業開始の鐘が鳴るだろう。少なくとも10分は経っていると思うのだけれど……あっ!!

 しまった、今日は計算上、ストーリーが進む日だ。確か、アデルとぶつかって花瓶の水をかけてしまう内容だった筈。花に気を取られて忘れていただなんて、私はなんて馬鹿なんだろうか。今更行っても間に合わないだろうし、ストーリーを実際にこの目で見るチャンスを棒にふってしまった。悲しい……。


「あっ、マーリアノルト様大変お待たせしました! すみません、少しトラブルがあって――キャッ!」


 残念な記憶力に落ち込んでいると、ミズキが花瓶を持って私の方へ駆け寄り、転けた。

 真冬ほどではないにしろ、冷たい水が花瓶から飛び出てサリアとタリアの間を通り、私の制服のスカート部分を濡らす。だいたい、膝少し上くらいだろうか。


「す、すみません、マーリアノルト様!」


 花瓶を両手で持ち、へたり込んだままの状態で涙目のミズキが謝る。サリアとタリアがハンカチで私の制服を拭いてくれた。小さいとは言え、恐らく4分の3くらいは水が入っていたのだ。濡れて出来た染みはまだ消えない。でも、どうせ授業を受けている間に乾くだろうし、そんなに気にすることではないだろう。


「あら、この程度、気にしなくて良くってよ」


「マーリアノルト様の制服が!」

「そこの庶民が水をかけていたぞ」

「なんて身の程知らずな」


 この状況に気付いた周りの生徒が悲鳴を上げた。水がかかった本人が気にしなくていいと伝えようとしているというのに、周りの声が五月蝿くて全くミズキに聞こえていないようだ。ミズキがぽろぽろと涙まで流し始めたではないか。転んで水をかけただけで大袈裟な。故意ではないのだから、それくらい許してあげようよ。そう思うけれど、私は今マーリアノルト公爵令嬢だ。きっと周りから見たら大事件なのだろう。どうしても私にはその感覚が分からないのだけれど。

 真横に居たサリアとタリアには、私の気にしていないという言葉が聞こえていたらしく、ミズキを責め立てることはしなかった。


 「申し訳ないけれど、この騒ぎを落ち着かせる為にサリアもタリアも協力してくれないかしら」


 「勿論でございます」

 「勿論でございます」


 流石双子。息ピッタリの返事だ。そう思った直後に、教室の扉が開いた。


「騒がしい……」


 扉を開け、教室に入ってきたのはアデルのようだ。ミズキと私を囲んで居た生徒がアデルの為に道を空ける。そして徐々に静かになっていく。私を含む、公爵家の人間に対してよく見かける光景だ。これに関しては流石に慣れたので、特に驚くことは今更しないのだが、まさか私達の元までやって来るとは思っていなかった。

 近くで見ると、少しだけ深紫色の髪が湿っている。ストーリーが私の予想通り進んでいたらしい。ミズキが遅くなった理由は、転けた拍子に花瓶が手から離れ、アデルに頭から水をかけてしまったからだろう。ゲームと同じかは、実際に見ていないので分からないが。

 アデルの頭にぶつかり、手入れの行き届いた木製の硬い床に落ちた花瓶は見たところひび割れ一つ無いので、これもきっと何か特殊な技術が用いられているのでは、と私は勝手に予想している。

 と、話が逸れた。


 「ミズキ嬢、また転んだのか。先程前方と足下に気を付けるよう言ったばかりなのに」


 アデルはまず、ミズキをガラスのように何も読み取れない瞳で一瞥し、感情の余り感じられない声音で言葉をかける。そして次に、私の方へ近付き周りには聞こえない音量で一言。


 「心が狭い」


 「……え」


 思わず固まってしまうような言葉を投げかけてきた。

 私は気にしなくて良いよってさっきから何度か言っていたのに……。

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