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25 消えた花

 私の側近であるサリアとタリアを後ろに引き連れて、意気揚々と教室に向かう。いつもは、人がまだまばらな時間に席に着くのだけれど、今日は特に早い時間に教室まで来てしまった。

 教室内にはまだ私達3人しか居ないようだ。

 鞄をいつもの席に置き、なだらかな下り坂になっている席と席の間の通路を歩く。さて、花の色は何色かな、とわくわくしながら白いサテン生地のカーテンに隠すように置かれた花瓶を覗く。中は空っぽ。花が消えていた。

 ……え? 花が無い?


 もう1度花瓶の中を覗くが、無い。そっと手触りの良いカーテンを持ち上げても、無い。カーテンをスライドさせてみるが、無い。そんな馬鹿な。あの花が無いとヒロインが誰のルートに入ったのか分からないのに。


「サリア、タリア、ここに生けてあった花が無くなっているのだけれど、どこに行ったか知らないかしら」


 何を言っているんだ、とでも言いたげな表情でお互いの顔を見合わせた後、その表情を瞬時に消し去ったサリアとタリアが私の元まで降りてきた。


「そういえば、ありませんね」


「大変申し訳ございませんが、私には分かりかねます」


「何となく気になっただけだから気にしなくていいわ」


 明らかに落ち込む2人の姿に、慌てて声をかける。

 それでも謝り続けるサリアとタリアを宥めていると、扉が開く音がした。


「あっ、マーリアノルト様、コーデル様、おはようございます!」


 さらっと揺れる金髪と笑顔が眩しいミズキが、ぺこりと頭を下げて挨拶をしてくる。


「ご機嫌よう、ミズキさん」


「おはようございます、ミズキさん」

「おはようございます、ミズキさん」


 サリアとタリアはしゅんとしていた表情を一瞬で消し去ると、お淑やかな笑みを作りながら私に続いて挨拶を返していた。令嬢凄いわ、なんて感心している場合では無い。


「前の方の席にマーリアノルト様がいらっしゃるのは珍しいですよね? 今日は前方で授業を受けるんですか?」


「いえ、そういう訳ではないのだけれど……ミズキさんはここにあった花の為に、毎日花瓶の水を取り替えていたわよね。今花瓶の中身が空っぽなのだけれど、何故か知っているかしら」


 ミズキは少し呆けた顔で動きを止め、私の元にやって来て少ししてから口を開いた。


「お花のこと、ご存知だったんですね。昨日まではここにあった筈なんですが……何処に行っちゃったんだろう。コメット先生なら知ってるかもしれないです」


 悲しそうな声音でそう言うと、私の視線に気が付いたのかミズキは笑おうとした。眉は下がったままなので、これでは苦笑いである。サリアやタリアのように、すぐ完璧な笑顔に切り替えられないのも仕方が無い。


「突然、ごめんなさいね。コメット先生に訊いてみるわ」


「お役に立てず、すみません」


 またもやしょんぼりするミズキを宥める。なんだか今日は宥めてばかりだな。


「お? おはよう、マーリアノルト嬢、コーデル嬢、ミズキ嬢。珍しいな、こんなところで。どうしたんだ」


 いつの間にか教室に入って来ていたジーニア先生に、後ろから声をかけられた。反射的に挨拶を返す。

 軽く首を傾けた姿は、20代後半の実年齢より少し幼い印象を抱かせる。ゲームでは分からなかったジーニア先生のこの癖だが、今はそれよりも注目すべきてんがあった。


 「コメット先生! おはようございます。お花を持って帰られたんですか?!」


 そう、1輪のそこはかとなく中心部分が銀色にも見えなくは無い花を持っていたのだ。くっ、この程度の色では光の反射のせいなのか、花の花弁自体に色が付いているのか判断できないではないか。


 「ああ、前に飾っていた花は枯れてしまったから、新しいのを貰ってきたんだ。学園内の庭園を管理するモーブさんからな。少しだけ色が違うんだが、まあ、気が向いたら確認してくれ」


 えっと、つまり。

 好感度によって色が変わる不思議な花だと思っていたら、実はタイミング良く別の花に変えられていたということ、なのだろうか。ファンタジーだと思っていたら、全然ファンタジーではなかった。残念。

 ジーニア先生の言葉を信じるのであれば、今日新しく持って来られた花は少しだけ色が違うらしい。これは確認しなければならない。


 「コメット先生、(わたくし)が花瓶に生けてもよろしくて?」


 「ん? ああ。いいぞ。しかし水を抜いたから新しく入れ直さないといけないんだが」


 「それは(わたし)がやりますね」


 別に自分で水くらい入れに行くと言いたかったが、公爵令嬢はそんなことしないか、と気が付き口を開く寸前で思いとどまった。すぐにミズキが名乗り出てくれたので、面倒なことにならずに済みそうだ。


 「それにしても、マーリアノルト様がお花に興味があるなんて知りませんでした。こんな席からは見えにくい、日当たりは1番良いんですけど、このお花を見付けて気にかけて下さっていたなんて」


 両方の手を合わせ、ふわっとミズキが笑う。つられて私も笑みを向けた。


 「だから、偶然目に止まっただけですのよ」

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