21 側近同士
夜会で踊るダンスは時間的な関係で、4曲までだったらしい。
足の悲鳴を無視して大理石の硬い床で踊りきった。私の髪と同じアクアマリンの色の靴はヒールが高く窮屈で、仕事が終わった今、すぐにでも脱ぎたい代物だ。夜会が始まる前にシーアやサリア、タリアと一緒に選んだ時は少し心が躍ったのだけれど。どうやら疲労が勝るらしい。
ルドア王子にエスコートされてまだ多くの学園生が残って賑やかな会場を出る。まだ私を優しく受け止めてくれるベッドがある寮の自室でもないが、少しくらい詰めていた息を抜いても良いだろう。
夜会が始まる前はまだ日が沈みきっておらず気が付かなかったが、綺麗に整備された石畳の道の両脇を、光魔法で作ったのであろうオーブがフワフワと足下を照らしている。
ここでランタン等の照明器具を使わないところにファンタジーを見付けて、少しだけ体が軽くなったような気がした。
「ご機嫌よう、エリエルさん。ルドア」
突然かけられた声に、危うく足首を挫いてしまう所だった。
「ご、ご機嫌よう」
「母上、もう帰ったのではなかったのですか」
今回のイベントの準主役とも言える王妃様がお忍びスタイルのまま、オーブの光が届かない端の方で私達を待ち伏せしていたのだ。ルドア王子も聞いていなかったようで、私と一緒に驚いている。
「折角ですから、あなた達にご挨拶をしておこうと思ったの。とても素敵なダンスだったわ。私とミズキさんから皆の視線を外してくれてありがとう」
王妃様は悪戯が成功した子供のように笑うと、そのまま馬車に乗り帰って行った。
な、何だったんだろうか。
「王妃様はミズキ嬢や学園生についてだけではなく、マーリアノルト様のことも見極める為に来ていたのかもしれませんね」
突然聞こえてきた声に振り向くと、まだ人の残る会場から、カイルが歩いてくるところだった。婚約者が決まっていないらしいカイルは、色々なご令嬢達に引っ張りだこにされていた筈だけれど、夜会が終わってようやく解放されたのだろう。
「フレンディット様、それはどういうことでしょうか。エリエル様に対して、もし失礼な意味を含む発言なのであれば撤回を要求致します」
よく似た二つの声が、私の左横から重なって聞こえてきた。いつの間にか私の側までやって来ていたサリアとタリアだ。口元に笑みをうっすらと浮かべつつも、その瞳が不快であると訴えている。周りが暗い中、会場から漏れ出る光が顔に当たるので、明るい場所で見る形式的な笑顔とは比べものにならない程迫力があった。
「おや、折角の美しい顔が台無しですよ、コーデル嬢達」
カイルはカイルで背に光源がある為、顔に影が出来てとても恐ろしいことになっている。カイルの後ろから聞こえてくる楽しそうな話し声とのミスマッチさは、もはや異常だ。
「カイル、失礼なことを言うんじゃない。エリエル、私の側近がすまない」
「い、いいえ、気に留める程のことでもありませんわ。サリアもタリアも落ち着きなさい。私は全く気にしてなどいないわ」
まさかルドア王子に謝罪されるとは思っていなかったので、少し反応が遅れてしまった。まだ冷たさの残る風が、私達の間を縫うようにして吹き抜ける。
「それは失礼致しました、殿下。マーリアノルト様も、ご寛大なお言葉、感謝の念に堪えません。私の失言により不快な思いをさせてしまったようであれば謝罪致します」
「私達も、話の全容を把握しないままに口を出してしまい、申し訳ございません」
カイルもサリアもタリアも、謝っているのか少し怪しいところであるが、ここで掘り下げたところで良いことなど何もない。
偶然夜会会場から出て来たどこかのご令嬢が、私達の方を見た瞬間に勢い良く目を逸らした。その見てはいけないものを見たかのような反応、分かる。
今、夜会会場の出口付近は、私と右横に立っていたルドア王子の存在感が薄れる程、側近同士の表面上はにこやかな、漂う空気は雷でも落ちてきそうな恐ろしい空間と化しているのだから。
「あっ、マーリアノルト様ー!」
そんな空気をぶち壊す天使のような存在は、夜会会場の方からやって来た。本日のイベントの主役、ミズキだ。
「ルドア様、フレンディット様、コーデル様方もこんばんは」
殺伐とした空気をものともせず、むしろお花でも飛んでいるかのような空気にするミズキには、拍手を送りたくなる。
でも、何の用で私達に近付いてきたのだろうか。ゲームには無かったシナリオだ。




