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22 ブエックショイチクショー、にならなくて良かった

6月10日に内容を変更しております。

 履き慣れないせいか、高いヒールのせいで何度か躓きそうになりながらも、ミズキは私達の元まで歩いてきた。撫でるように吹いた柔らかな風は、どこからか甘い花の匂いを運んでくる。ヒロイン効果という奴だろうか。


「マーリアノルト様もこんばんは。ルドア様とのダンス、とても素敵で見とれてしまいました」


「ミズキさんこんばんは。ありがとう、嬉しいわ」


「私からも礼を言わせてもらうよ。ありがとう」


 えへへと可愛らしく笑みを作る姿を見ると、成る程、さすがはヒロインだと思う。心なしか、ルドア王子の頬が赤くなった気がした。魔力暴走の分岐ルートに行ける程ではないにしろ、少しは好感度が上がっているのだろうか。

 サリアとタリアのミズキを見る目は怖いが、今まで虐めろと命令したこともなければ、私が実際に行ったこともない。突然ここで突き飛ばしたりはしない筈だ。出来れば睨むのも辞めて欲しい。


「私、実は今日、1度も踊れなかったんです……。なんだか気後れしちゃって」


 先程の笑顔とは打って変わり、しょんぼりという効果音が似合う表情になった。仕方がないと思う。正直私もあの中で踊るのは嫌だった。皆レベルが高くて高くて。こいつらの視線をルドア王子と2人占めしろって、無理ゲーだと思ったよね。エリエルの体がダンスをしっかり覚えてくれていなかったから終わっていたと思う。

 イベントが発生するから、どうせ踊れても1回目だけだったと思うしね。


「気にすることはなくってよ。あなたは夜会なんて初めてでしょう。これからも夜会自体はあるのだし、次回踊れば良いじゃない」


 なるべく気負わせず、且つエリエルらしく言ってみたけどどうなんだろう。ルドア王子とカイルからの視線が痛い。

 うーん、不自然だったか。


「マーリアノルト様が誰かを慰めるだなんて……」


 カイルが引っかかったのはそこだったらしい。一瞬場の空気が凍り付く。鳥が近くの木から飛び立った。

 折角暖まってきた空気を……カイルめ、なんてことをしてくれたんだ。私も鳥肌がたったじゃないか。


「何か問題でもあるかしら」


「さ、流石に失礼ではないかと……」


 最初に我に返った私の、少しイラッとした言葉に続き、ミズキも少し非難するような言葉を零した。一応カイルは王子の側近なので、安易な言葉は褒められたものではない。でも、お陰で苛つきはクールダウンした。冷静にミズキに声をかける。


「いえ、ただの気紛れ――ックシュンッ! あら、失礼」


 ミズキがこれ以上何か言うのを止めようとしてくしゃみが出た。風が時折吹いてくるし、2回程場の空気そのものが冷え切ったせいだろうか。

 それに、いつの間にか、会場に明かりは残っているものの声は殆ど聞こえなくなっていた。

 頭上には三日月が輝いている時間だ。冬よりは暖かいが、それでも肌寒い。足下を照らすオーブの光が強く見えるのは、辺りが更に夜闇に包まれたからだろう。

 ドレスで長時間外に居たのだから、くしゃみの1つや2つ出てしまっても仕方がないか。


「エリエル様、1度屋内に入りましょう。お風邪を召されては大変です」


 サリアとタリアが同時に口を開き、そのまま寮の方へと歩かせようとする。その前にミズキが躍ろうとしているのを止めないと。

 そう思って下がっていた頭を上げる。割と至近距離にミズキが居た。びくっとなったが、悲鳴を上げなかった私は及第点だと思う。


「す、すみません。早く暖かいお部屋に戻りましょう! 風邪を引いたらしんどいんですよ! 熱でも出たら大変です!」


 そしてミズキも私の背中を押してくる。ポツポツと灯りの消えた部屋のある寮が見えた。先に帰った人の中には既に就寝した者も居るのだろう。


 エリエルが風邪を引くなど全く想像できないが、忘れていた足の痛みもぶり返してきたことだし、お言葉に甘えて帰ろう。そもそも、帰り道での出来事だったと思い出し少し笑ってしまう。


「ルドア様、フレンディット様、申し訳ございませんが、私達(わたくしたち)は失礼致します。お2人も風邪を召されませんようお気をつけ下さい」


 私に続き、サリアとタリア、そしてミズキも頭を下げる。目に映った白い石畳の道が、オーブに照らされて淡く輝いていた。


「気遣いありがとう。エリエルは私がエスコートしよう。コーデル嬢もミズキ嬢も真っ直ぐ自室へ帰ると良い。そう言えば、君達にはエスコートは居るのかい」


「私達にエスコートなど居りませんわ」


「私も居ないです」


 3人が首を横に振る。ミズキはともかく、サリアとタリアも居ないのか。ここでいうエスコートは婚約者を意味する筈なので、3人ともフリーだということだ。いや、学園生以外の婚約者が居るのかもしれない。しかし、万が一婚約者が居ないとなると、側近2人はエリエルが邪魔していた可能性があるので、私は深く突っ込めない。後々、やんわりと聞いてみようと思う。


「なら、全員で寮まで帰ろうか。部屋の前まで送るのはエリエルだけになるけれど、それでも良いかな」


 ルドア王子がイケメン王子様スマイルを浮かべながら3人に尋ねる。サリアとタリアは表情を一切変えることなく頷いた。ミズキは、少し頬が赤く染まっている。ギリギリ、ルドア王子とミズキは向かい合っているように見えなくもないので眼福である。今の私は幸せ一杯なので、多分風邪のウイルスや菌には簡単に負けないだろう。上機嫌で寮まで皆と一緒に帰ったのだった。










 そして翌日。


「エリエル様、熱が出ております」


 風邪を引いた。

話の内容に間違いを見付けた為、修正させていただきました。ご迷惑おかけし申し訳ございません。

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