20 夜会
ルドア王子に手を引かれるまま、体が自然と動くがまま私はステップを踏む。
頭で考えずに、体の記憶力に任せるのだ。私がダンスについて下手に考えてしまえば、踊りを覚えている筈の体が頭に従おうとしてしまうだろう。
だから全然関係のない、別のことを考えることにした。
まず、当たり前なのかもしれないが、ルドア王子の顔が近い。出来ればこの密着度合いのまま、ヒロインにポジションを交代して貰って、周りで呆けているご令嬢やご子息側に回りたい。
可能であれば写真撮影もしたい。スマホもカメラも何もないから無理だけれど、やりたいと考えるのは自由なのだ。
ダンスを踊る為に必要だから集中しないようにしているのだけれど、ほぼ上の空である今の状態をルドア王子に気付かれてはならないことくらい分かる。絶対、不敬に当たるからね。普通に考えて失礼だし。
自動的に微笑みを浮かべて踊っているので、たまに意識してルドア王子の目を見てにこりと笑みを強めておく。これで誤魔化せると思いたい。
ダンス中にお喋りはしないようなので、そこだけは安心だ。
下手にお喋りをして、エリエル時代のことを聞かれたら動揺して、ルドア王子の足を踏む自信がある。
そんなことを考えながら、気が付けば1曲目が終わっていた。
特段疲れた感じもしないので、エリエルの体力は日本の私よりも多いのだろう。ご令嬢に負けてしまうとは、と一瞬思ったが、常にヒールの靴を履き、夜会ではダンスを何曲も踊ることを考えれば当然か。
「本当なら、ここで別のご令嬢と踊ることもあるのだけれど、今日はこのままパートナーは変えずに最後までペアでいよう。婚約者だから特段変というわけでもないからね。辛くなったら言って欲しい」
成る程、だから周りに一定の距離を取りつつご令嬢が集まっているのか。婚約者が居る居ないは関係なく、ルドア王子とダンスを踊りたいのだろう。今日はミッションがあるので諦めて欲しい。
いつまでもルドア王子と手を繋ぎ向かい合っているからか、向けられた視線が太い針のようにグサグサ刺さる。
私が王家に次ぐ権力を持つ公爵家の娘だからか、周りを囲むまでしか出来ないのが救いだろう。エリエルのように物理的に自分と踊るよう強制する人が居なくて本当に良かった。
ちなみに、手に関してはルドア王子が外さないようがっちり掴んでいるせいで、離せる気がしない。
「分かりましたわ」
「ありがとう。母上は無事にミズキ嬢に出会えたようだから、よりこちらに注目が集まるよう、頑張ろう。では、2曲目も頼む」
いつの間にかゲームのイベントは進行していたようだ。私にはご令嬢達のドレスの壁のせいで、王妃様とミズキが何処にいるのか見付けられそうにない。キョロキョロするわけにはいかないので、諦めてルドア王子に向き合った。
相も変わらずなイケメンスマイルにときめかないまま、2曲目が流れ始める。
継続して注目される為には、全員が惚けるレベルのダンスを踊らなければならないのだろうか。どんなダンスか想像が付かないが、全てはルドア王子のリード力によるので頑張って欲しい。
ルドア王子に引っ張られるまま、また、上の空ダンスが始まるのだった。




