19 夜会びより
なんだかんだで、夜会当日になった。
出来れば中止にならないかなとも思ったが、王妃様が来る時点でそれはないと今なら分かる。気を引き締めていこう。
ここまでエスコートしてくれたのはルドア王子だ。当たり前か。
「そのドレス、似合っているね」
「ありがとうございます。シーアやサリア、タリアが一緒に選んで下さいましたの」
お世辞だとは分かっているが、4人で選んだドレスなので嬉しくなる。
にこりと微笑むと、ルドア王子は何とも微妙な顔をした。
お世辞を真に受けられたからと言って、そんな顔をしないで欲しい。シーア達のためにも、ルドア王子に何か言い返してやろうか、と口を開こうとするより早く、ルドア王子が手を差しだしてきた。
「それではエリエル、よろしく頼むよ」
「……分かっておりますわ。ルドア様」
ルドア王子の手に私の手を乗せる。
ここで騒いだらストーリーが進まないだろう。そういう風に、自分の感情を宥めつつ足を出す。
黒い燕尾服を着た侍従のような男性が、夜会会場の扉を開けた。
1歩踏み入れるとそこは煌びやかな貴族達の世界。
臆しそうになったが、笑みを貼り付けたルドア王子に手を引かれ会場に足を踏み入れる。
流石、この国の王子とその婚約者。大量の自然がぐっさぐさと突き刺さった。1つ上の学年は勿論のこと、同じ学年の人も普段はここまでジロジロと見てこないのだが、今日は凄い見てくる。ルドア王子にエスコートされているからだろうか。
教室では、あまり私とルドア王子が一緒に居ることはないので余計に視線を集めるのかもしれない。
噂話で、ルドア王子とワガママ令嬢のエリエルは不仲だから、殆ど一緒に居ないんだと言われているのは知っている。サリアとタリアが憤慨していたので、宥めるのは大変だった。
私がルドア王子に近付かないのは、可能な限り空気になりきり、何かカップリングの気配がないかを探るために、敢えて避けていた部分が大きい。えっ? そんなことって? 実際に私の立場になったら空気に徹するくらいじゃないと素敵なカップリングを発見できないんだから仕方が無い。公爵令嬢が歩くと自然と道を空けられるのだ。私の存在が邪魔すぎる。
……うん。これだけが理由じゃない。ミズキの邪魔をしたくないのもあるが、1番はルドア王子含む攻略対象に近付いて、バッドエンドを迎えたくないという気持ちからだ。
そんなことは一旦置いておくとして。
ルドア王子と会場の中心付近で立ち止まると、一斉に周りから挨拶を受けた。貴族は、同じクラスでほぼ毎日顔を合わせていたとしても、夜会で改めて挨拶するのが基本らしい。
面倒臭いなと感じつつ、淑女の礼で返していく。
見覚えのある顔、ない顔に内心悲鳴を上げつつ、その殆どが私にお久しぶりです、と声をかけることに恐怖を感じた。
だって私は知らないのだ。エリエル・マーリアノルトとしての記憶がない。もし彼らに深く突っ込まれては、何も応えられない。どうか挨拶と世間話程度で全員どっか行ってくれないと困る。
私の願いが届いたのか、誰とも深く話し込むことはなく挨拶ラッシュが終わった。
「や、やっと終わった」
ついぽろっと、誰にも聞こえないくらいの音量で本音が出てしまったのは大目に見ていただきたい。
「エリエル、何か言ったかい?」
「いえ、何も」
「そう?」
適当にルドア王子の言及をあしらい、会場に用意された料理の数々を見る。
お高そう。そして美味しそう。お腹の部分を締めるコルセットを使用したドレスなので、あまり量は入らないだろうが、少しくらいは食べても良いだろうか。
「あの、ルドア様――」
「そろそろダンス――」
ルドア王子に一応許可を得ようとして、思い切り言葉が被った。
多分、自分より上の人の発言を遮るのはよろしくない気がする。常識的に。
「ルドア様、申し訳ございません」
「いや、気を付けていなかった私も悪いから、気にしなくていい」
「あ、ありがとうございます」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
何だろうこの、別れる前のカップルのような気まずさは。小説や漫画で見たことがあるぞ。
ちらっとルドア王子を窺い見ると、神妙な面持ちで口元に手を当てて何かを考えているように見えた。まだ死刑宣告や国外追放を言われるには早い時期だと分かっていても、不安になるから辞めて欲しい。
何だかんだで私も、バッドエンドを恐れているのだなと自覚する。
サリアやタリア達とも仲良くなってきて離れたくない気持ちもあるし、間近でヒロインと誰かの恋を見守ることも出来なくなってしまう。そんなのは嫌だ。
「少し考え事をしてしまった。このような場で、君の前で不適切だった。すまない」
「えっ、いえ、お気になさらないで下さい」
私も考え事をしていたのでおあいこだ。にこっと笑ってこれ以上の謝罪は不要だと言外に伝える。
「ありがとう。ああ、丁度ダンスが始まるようだね」
ルドア王子の言う通り、会場に流れる音楽がダンス用のゆったりとした曲調に変わっている。
「エリエル、どうか私と踊っていただけますか?」
「はい」
差し出された手を取り、ルドア王子と向き合った。
少し下を向いて息を吐き出す。大丈夫、頭でごちゃごちゃ考えないで、リードされるまま、体が動くままに任せれば良い。
失敗しない筈! 私はやる時にはやれる女なのだ。多分!
既に踊り始めている人達もいる。
とても綺麗で優雅だが私達はそれを超える、思わず誰しもが目を奪われるようなダンスをしなければならない。
体が固くならないよう、小さく深呼吸をした。




