18 夜会の前の萌え補充
ダンスの練習の翌日の放課後。
夜会を明後日に控えた私は、緊張してあまり出歩かない……なんてことはなく、ミズキとテオとアマリスが出会うイベントがある筈の場所へと来ていた。
側近であるサリアとタリアは、何かを突っ込むこともなく一緒に物陰へと隠れてくれる。以前はエリエルの影響で、身の程を教えて差し上げるのですか? なんて物騒なことを聞いてきたが、1度断ってからは全くそう言ったことを訊いてこなくなった。優秀な側近だと思う。
別に、ずっと付いてこなくても大丈夫だと伝えたら、誘拐を防ぐ目的もあるからと断られた。確かに公爵令嬢のうえ、現在はルドア王子の婚約者の私は格好の獲物だ。サリアとタリアにお礼を言って、木陰からミズキを一緒に見守って貰うことにした。
私の計算上、今日テオとアマリスとミズキの3人が揃って出会う日の筈なのだけれど。場所が違うのだろうか。少しずつ移動する。
「あっ、間違えちゃった」
「誰かいるのか」
大当たりだったようだ。
ミズキと、こちらに背を向けているので顔は分からないが、真っ赤な燃えるような髪と、それより少し暗めの赤い髪が見えた。テオとアマリスだ。
ミズキは夜会に向けて人目につかないよう、図書館で借りた本を元に寮の裏手でこっそり自主練をしていた。そこに偶然、普段声がしない場所から聞こえてきたことに疑問を感じたテオとアマリスが、様子を見に来るといった内容だ。
「あぁ、ミズキ嬢か」
「へっ、あっ、オキシス様! ……と、えっと」
「初めまして。私はアクシュタイン男爵の娘、アマリス・アクシュタイン。テオ様の婚約者ですわ」
アマリスがスカートの裾をつまみ、淑女の礼をする。ワインレッドのような、深みのある赤色の髪が揺れた。
「こ、婚約者様! えっと、初めまして。ミズキです。オキシス様とは同じ学年で、分からないこととか、色々教えて貰っていて、お世話になっています。よろしくお願いいたします!」
ミズキもアマリスを真似て、ぎこちなくではあるが、淑女の礼を返した。ゲームをプレイしている時も思っていたが、ミズキのその言い方だとアマリスへの宣戦布告とも取られかねない。大丈夫だろうか。
もしここでアマリスが、ヒロインがテオを好きなのでは? と疑う言葉を発したならば、テオルートの早期特典の限定スチルがゲットできるイベントへと移行する。
けれど、多分。
「ミズキ様……もしかして、聖の魔力の持ち主の?」
口元に手を当てたアマリスが首を傾げる。
予想通り、テオルートに入ってはいないようだ。
「はい。と言っても、多分私は魔法の才能なんて、ないんですけど……」
「あら、聖の魔力自体が珍しいものですし、魔力量やその質は100年以上現れていない程のもの、とお聞きしましたが」
「私にはよく分からないんです。2日前の授業では魔力暴走を起こしてしまいましたし」
「まあ……」
「あの時、マーリアノルト様に助けていただかなかったら、きっと誰かを傷付けてしまったと思います」
思わぬ所で私の名前が出て来たので、少し動揺してしまった。サリアとタリアがうんうんと頷いている。
「マーリアノルト様……公爵家のご令嬢ですね。私も何度か夜会でお会いしたことがありますわ。けれど、意外ですわね。あの方が誰かを助けるだなんて」
「実際に、おれもマーリアノルト様が助けるところを見たけど、的確な指示を出していたように思う。学園に入ってから、こう、丸くなった感じがするから、アマリスも明後日の夜会で話してみたらいいんじゃないか?」
何故かエリエルの話に移行している。ゲームではそんな話しなかった筈なんだけれど、私がストーリーにない行動を起こしてしまったからだろうか。考えても分かりそうにないので、一端置いておくことにしよう。
私になる前のエリエルしか知らないアマリスは、怪訝な表情を隠しきれていなかったが、少ししてから首を縦に振った。そんなにエリエルの変化を疑うのか。そう考えてから、ゲームのエリエルを思い出す。
確かに、ゲームに出て来たエリエルしか知らないのであれば信じられないのも無理はないか。
「そうですわね。機会があれば、お話させていただくわ。それより、ミズキ様はこちらで一体何をしていらっしゃったのかしら」
アマリスの突然の話題変換にミズキが慌てた様子で口を開く。ゲームの筋書きに戻ったな。
アマリスは切り替えが早いタイプなのだろう。日本に居た頃の同人誌でも書かれていた通りだ。そう思うと、作家さんが如何にアマリスについて考え、研究して二次創作を書いていたかがよく分かる。
その本を読ませていただいていたので、感謝の気持ちを念にして送っておいた。届くかは分からないけれど、せずにはいられなかったのだ。
「へっ!? あっ、はい! 実は今日、コメット先生に土曜日の夜会に参加するよう言われました。本当はダンスなんて踊ったことなかったので、参加する気はなかったんですが……。それで、ダンスの練習を、図書館で借りた本を見ながらしていたんです」
「あら、そうでしたの。でしたら……テオ様と私で踊って見せましょうか。夜会には私達、何度も参加しておりますし、その度に踊っていますから。お手本になれる程の実力はないとは思いますが、本を読むだけでは分からないところを知るためにも、1度実際の踊りを見た方がよろしいのではないかしら。テオ様もよろしいですか」
「おれは全然構わないよ」
「そ、そんなご迷惑をおかけするわけには」
「気にしなくていいよ。おれ達の復習にもなるし、付き合ってくれないかな」
「そ、それなら」
「ありがとうございます。それでは、テオ様、よろしく御願い致しますわ」
流石に1曲丸々という訳にはいかなかったが、テオとアマリスの周りを引き込むような優雅なダンスは、私の心を満たしていった。音楽なんてかかっていないのに、2人には聞こえているかのような、完璧なステップだ。
ミズキの方を見ると、頬を赤らめてポォっとしていた。私も同じような顔になっているかもしれない。
萌えの大噴火が起こりそうな程内心興奮していたが、ここで悶えて3人にバレるわけにはいかない。口に手を当て声を出さないようにした。
「ありがとうございました! 素敵なダンスが見られてとても良かったです! 土曜日の夜会では、オキシス様やアクシュタイン様のようには踊れないと思いますが、精一杯頑張ろうと思います」
「ええ。応援しておりますわ。ではこれで、失礼致します」
「ミズキ嬢も暗くならない内に寮に帰りなよ。それでは失礼」
こうして、ストーリー回収を終えた私は、サリアとタリアと一緒に寮まで戻ると、自室に1人でこもって夕食の時間までごろごろと悶え苦しみ昇天しかけるのであった。




