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17 ダンス?・ダンス・ダンス!

 シーアのナイスとも、突拍子とも取れる発言の後、私は3人の目の前でダンスを踊ることになった。

 来客用の部屋自体がかなり広いので、机と椅子を端に寄せるだけで場所は確保できる。流石、貴族ばかりが通う学園の寮だ。

 シーアが手早く準備を進め、レコードのような道具に円盤をセットした。


「お嬢様、音楽の用意ができております」


「分かったわ。ありがとう」


 いや、本当に早いな。心の準備全然出来てないよ。本当は1人で踊って確認するつもりだったのに、いきなり観客3人になった気分だ。


「勿体ないお言葉でございます」


 シーアのお辞儀は綺麗だな、なんて現実逃避は全く意味をなさないと知っている。仕方が無い。やれるだけやってみるか。


「音楽をかけてちょうだい」


「はい」


 シーアが頷き、円盤の上に針を落とす。ピアノとバイオリンが美しいハーモニーを奏でる。ゆっくりとしたテンポなので、踊りやすい……のかもしれない。


「………………」


 待って! これ、いつどう動き出せば良いのか全く分からないのだけれども! 右、左とごろか手と足どっちが先に動くのかさえ分からない。ゲームだって静止画でしかダンスの場面は載せてくれないし。


「エリエル様?」


「お嬢様?」


 シーアとタリアの2人が怪訝な表情で、棒立ちのまま動けない私を見ている。どうしよう。


「私が男性(リード)役で、エリエル様のお相手をした方がよろしいでしょうか」


 そんな時、サリアが部屋の隅に置いてある椅子から立ち上がった。正直相手がいてもいなくても踊れないことに変わりは無いと思う。けれど。


「サリア、お願いするわ」


 1人で立ち続けるのは辛いので、相手役を頼むことにした。


「失礼致します」


 サリアが私の手を取り握る。


「エリエル様、失礼とは存じますが、ご意見させていただいてもよろしいでしょうか」


「大丈夫よ」


「ありがとうございます。まず、体からもっと力を抜いて下さい。固くなっております。それから、今回は顔は正面を向くようにして下さい。本来、お相手の方が身長が高いことが多いので、可能であれば相手の顔を見るようにしていただければ、と思います」


 私とサリアだと、エリエルの方が少し身長が高いので私が下を少し向くことになる。そうなると、多分猫背になりやすいから正面を向くように言ったのだろう。

 小さく息を吐き、真っ直ぐ正面を見据える。

 

「では、私のリードに合わせて、エリエル様も動いてみて下さい」


「分かったわ。サリア、ありがとう」


 シーアによってかけ直された音楽に合わせ、サリアが私の手を引く。手を引かれると、自然と1歩足が前に出た。左、右、左、1回転と、サリアにつられて考えなくても体が動く。少し楽しくなってきた。体が勝手に踊り出す。この表現がぴったりだな、と少し冷静な部分で考えていた。


 聞こえていた曲が止まり、私はダンスが終了したことに気が付く。楽しくなって、夢中になっていたらしい。


「やはり、エリエル様は素晴らしいですね。最初の方こそ体に、余分な力が入っていましたが、途中から普段通り完璧なダンスを踊れていましたよ」


 サリアが微笑みながら褒めてくれた。

 正直、途中の記憶が楽しいっていうことしか覚えていないので、ちゃんと踊れていたのか少し不安だったが、大丈夫のようだ。


「サリアの言う通りです! 最初は、エリエル様調子が悪いのか心配になりましたが、いつものように、何の問題もありませんでした」


「はい。お美しく、素晴らしいダンスでございました」


 続けてタリアとシーアが、拍手をしながら大丈夫と言ってもらえた。

 普段通りのダンスが踊れていたということは、体が覚えていたのだろうか。私がごちゃごちゃ考えずにいれば本番でも踊ることが出来るなら助かるのだけれど。


「ありがとう。本番でも安心して踊れそうね」


 まだ確信は持てていないが、3人に安心して欲しくて言葉が滑り落ちてしまった。これで失敗したら凄く恥ずかしいことになる。土曜日の夜会では、ごちゃごちゃとした考えは捨てるようにしなければ。


「それにしても、何故最初の方は踊ることが出来なかったのでしょうか」


 タリアが首をかしげる。まさか、中身がエリエルとは別人だからですよ、何て、言える筈もない。


「昨日のミズキ様の魔力暴走やルドア王太子殿下からの頼まれごとが重なり、少しストレスがかかっていたのではないでしょうか。最近、お嬢様も少しお変わりになられておりますし」


 シーアがすらすらと考えを述べる。最後の一言は私を伺うような表情だったが、これでサリアとタリアを納得させられるなら乗っかる方が良いだろう。


 「そうかもしれないわね。流石、私の侍女ね」


 どれくらいの期間シーアが私の侍女をしているか分からないので、期間については言わない。

 サリアは信じ切ることが出来ないのか、少し首を傾けているが特に反論は思いつかないようだ。


 「そう、かもしれませんね」

 「きっとそうなのでしょうね」


 サリアとタリアの少し温度差のある返答を最後に、ダンスについての言及は終わったのだった。

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