16 踊るまでが長くてごめんなさい
ミズキと分かれた後、流石に暗くなっていたので寮へと戻った。
私が相談したいと言ってしまった為か、私の部屋にサリアとタリアが集合している。
寮の自室は4つの部屋に分かれており、今居るのは来客用に椅子と机が置かれた入口に通じる部屋である。
優秀な侍女シーアは、特に何か尋ねるようなことも無く、3人分の紅茶を用意しに、料理道具などが置かれている部屋へ向かった。
すぐに戻ってくることだろう。
シーアを見送った私を、2人が相談があるならさぁどうぞ、と言わんばかりの目で見つめていた。
「それで、相談したいことなのですが」
言ってしまっていいのか、やはり言わない方が良いのか。迷う私を急かすこと無くサリアとタリアは待っている。
じっと待っている。
「えっ、と、ですね」
穴が開きそうな程見つめられている。じーっと。
圧が!圧が凄い!
言えってことなんだろうけど、怖いよ!
口角を上げながら、逃がさないとでも言わんばかりの圧が凄い。
ミズキをダシに1回逃げてるから仕方ないけれど。その微笑みが怖い。
2人はこんな性格だったのか。エリエルに怯えるかのように、忠実で居ようとする普段とは、ちょっと以上に違う気がする。何故だ。
私は恐らく、微笑んだ状態で固まっているのだろう。冷や汗が首筋を流れている。目が泳がないよう力を入れたら、エリエルの吊り上がった目では、睨んでいるように見えそうだ。そのためサリアともタリアとも目を直接合わさないよう、視線は右下に固定している。
目を合わせていないのに、これ程までに見られていると圧を感じるのも如何なものかとは思うが。
これはもう、あれってことにしよう。
ルドア王子から会場中の視線を集めよう、と言われて緊張しているってことで。
大まかには間違ってないというか、実際に目立つのあんまり好きじゃないし。嘘にはならない筈だ。
「じ……実は、ダンスを上手く、踊る自身が、ありません、の」
表情筋がガッチガチに固まっていたので、中々口が思うように動いてくれない。
エリエルの体になってから気付いたことがある。体が公爵令嬢として相応しい立ち居振る舞いを覚えているのか、自然と動くことがある。今口角を上げようとしているのも、多分それだろう。口の端がピクピクと動いているので、かなり無理をしているようだが。
「エリエル様程のお方でしたら、何ら問題は無いと思いますが」
「今までも何度かお城で開かれた夜会で、国王様や王妃様の目の前でルドア王太子殿下とダンスをされていたではございませんか」
何故今更、と問いたげな表情のサリアとタリア。中身が違うから、だなんて言えるわけがないんだよね。
「もしかして、王太子殿下が今までにない程エリエル様を評価なされているから……? いや、でもエリエル様はそんなお方では無い筈」
サリアが神妙な面持ちでぼそっと呟いた。エリエルを貶すかのようなこの言葉はきっとゲームやアニメ、漫画の世界だと、いや、主人公ならきっと聞き逃してしまうタイプの台詞だと思う。
しかし、ゲームと同じとはいえ今の私にとって、ここが現実世界で、この物語の主人公でもない為か、しっかりと私の耳に届いている。もしエリエル本人が聞いていたら、サリアも分かっているのだろうけれど激昂し、暴言を吐かれていそうなものだ。
多分エリエル本人ならばサリアの言葉は聞き損ねてしまうのだろうけれど。
「ルドア王子の、エリエル様に対する雰囲気も柔らかくなったような気がしますし……?」
タリアも小さく呟いた。側近の双子がエリエルとルドア王子の関係をどう見ているかが分かってきたよ。
確かに、ゲームのルドア王子ルートで、ルドア王子がエリエルとの間に恋愛感情なんてものは一切無いって言い切っていたしな。私が初めてルドア王子と食堂で会った時も、会話した時も、あまり仲の良い印象抱けなかったし。むしろルドア王子はエリエルのことが嫌いなのだろうと感じたくらいだ。
そんなエリエルが、イケメン王子スマイルでルドア王子に頼まれごとをしたとしたら緊張する……いや、しなさそう。
それでもサリアとタリアが勘違いしているのであれば、それに乗らせて貰おう。もの凄く怪訝そうではあるけれどね。
「ルドア様に頼まれたのだから、完璧なダンスをしなけれならないのだから、緊張してしまっても仕方が無いでしょう?」
墓穴を掘った気がする。完璧なダンスを踊りたいわけじゃない。
いや、踊らないといけないのは分かるけれど、そもそもダンスが出来るか否かレベルの問題。ダンスの完成度を気にする以前の問題なのに。
「それは大丈夫だと思います」
「それは大丈夫だと思います」
サリアとタリアの声が重なる。うん、そう言われる気がしてた。
「で、でも」
「それ程心配があるのでしたら、今ここで踊ってみるのはいかがでしょうか」
声がした方へと振り向けば、ティーカップを載せたお盆を持ったシーアが立っていた。




