15 おやつ
本日の授業も恙なく終了し、寮に帰る前におやつを食べようということになった。
タリアとサリアが、新しい焼き菓子が食堂のメニューとして追加されたことを教えてくれたからだ。
ご飯もおやつもオールマイティに用意してくれるこの食堂は、お気に入りの場所になりつつある。
「まぁ、おいしい!」
夕焼け色に染まる空を見上げながら、チョコチップクッキーを口に放り込むと、思わず言葉がこぼれ落ちた。いや、本当にこのバターをしっかり練り込んでいるのであろうチョコチップクッキーがおいしいのよ。毎日食べたいくらいだ。太るから実行には移さないけど。
「それは良かったです。エリエル様、昨日王太子殿下とお話しをされてから、あまり元気が無いように見えましたので」
「えっ、そ、そうかしら」
「はい。サリアの言う通りでございます。夜会で不安なことがあるのですか」
「ん! ゴホッ」
クッキーの粉が気管支に入りかけた。少し咳き込んだ後、紅茶を口に含む。サリアとタリアが心配そうな表情で私を見ていた。
「ありがとう。迷惑を掛けてしまったわね。ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ、エリエル様を咽せさせてしまい申し訳ございません。この罪は」
「問わないので私の相談に乗って下さる?」
何かしらの失敗をする度、サリアは罪を償うと言ってくる。最近はマシになってきたが、癖のようなものなのか、中々無くならない。
……何となく今回は、私から相談を引き出すために言っていたような気もしたけれど。
「かしこまりました。また、寛大なお心に感謝致します」
サリアが椅子に座ったまま、お手本のような完璧さのお辞儀する。タリアもそれに続いた。
何となく私も一緒に頭を下げたくなったが、それはそれで面倒なことになると簡単に予想が出来るのでやらないでおく。
流れを切り替えるために、私から口を開いた。
「それで相談の内容なのだけれど、……」
そこまで言葉にしてから、私の悩みを口に出すか迷ってしまう。果たして、ルドア王子の婚約者として今まで生きてきたエリエルが、夜会でダンスを踊れるか心配だ、なんて言うだろうか。
言わなさそうだなぁ。
「キャッ!?」
どう言えば良いのか迷っていると、後ろの方から可愛らしい声が聞こえてきた。
丁度良いので、椅子から立ち上がり声の方へ向かう。
そこには転んだらしいヒロイン、ミズキの姿があった。
「ミズキさん、大丈夫かしら?」
手からすっぽ抜けたのか、丁度進行方向に落ちていた鞄を拾いミズキに声をかける。
慌てて起き上がったミズキの顔は、恥ずかしかったのか少し赤い。
「あ、ありがとうございます。大丈夫です!」
失礼にならない程度に、さっとミズキの姿を確認する。芝生の上だったことが幸いしたのか、特に怪我は見付からなかった。
「それは良かったわ。失礼するわね」
どうぞという言葉と共に、拾った鞄をミズキに差し出す。しっかりミズキが鞄の取っ手に手をかけたことを確認してから手を離し、近くで様子を窺っていたサリアとタリアの元へ向かった。
「私達が鞄くらい拾いましたのに」
2人の元まで戻ると、タリアがむくれていた。サリアがタリアに、失礼ですよと溜息を吐く。
顔は瓜二つなのに、サリアは冷静沈着で、タリアは無邪気さの残る明るい性格をしている。2人を見ていると、何故ここまで双子で性格が異なるのかと、飽きることがなくてとても楽しい。
「私が拾いたかったから拾ったの。それくらい、よろしいのではなくて?」
「それはそうですが」
「タリア」
「むぅ」
「フフフッ」
唇を尖らせるタリアに、思わず笑ってしまった。
「エリエル様……」
サリアとタリアが顔を合わせ、しょうがないですね、と2人も釣られたように笑い出した。
「あの!」
少し大きな声に驚いて振り返ると、まだ留まっていたらしいミズキが真剣な顔をしていた。
「昨日の授業では、ありがとうございました! ご迷惑をおかけしてすみません」
どうやら、魔力暴走の件で謝罪したかったらしい。
「気にしなくてよろしくてよ。きっとミズキさんが真面目に魔法の勉強と練習をすればその内、コントロール出来るようになるんじゃないかしら」
「はい!」
元気良く、大輪の花のようにミズキが笑う。
私もつられて笑った。




