14 真夜中大?作戦
この学園に、ダンスの授業はない。
ダンスの教養が必要な身分、つまりは貴族や王族なのだけれど、そういう人達は学園に入学する前に家で習得しているのが普通だ。
だから別に、授業に取り入れる理由はないのだろうけれど。
果たして、エリエル歴9日の私が4日後の夜会で、完璧で人目を引くようなダンスを踊ることが出来るのだろうか。
ルドア王子の協力して欲しいという申し出を承諾したのだから、責任を持たなければならない。
しかし、学園内では常にサリアとタリアが傍に居るし、寮の自室に帰れば私の夕食やお風呂等のお世話が終わるまで、侍女のシーアが待機してくれている。流石に、ダンスをきちんと踊れるか確認したい、なんて言ったらいらぬ心配を掛けてしまう気がする。
これは夜に寝たふりをして、皆が寝静まった頃にこっそりと確認するしかないか。
そして現在。
「お嬢様、それでは失礼致します。ごゆっくりおやすみなさいませ」
「ええ。今日もありがとう。おやすみなさい」
ようやくシーアが自室から退出した。私の部屋のすぐ隣がシーアの部屋なので、何かあればすぐに駆け付けられるようになっている。緊急時には大いに役立つ配置だろうが、今の私にとってはマイナス要素でしかない。
仕方がないので、シーアが寝静まるまで待つことにした。
はしたないと、もし誰かに見られていたら言われそうだが、壁に耳を付けてシーアの部屋から物音が聞こえないことを確認する。
何も音が聞こえなくなってから、体感的に1時間は経った。そろそろ良いだろうか。
試しに、壁を1度ノックするように叩いてみる。目は閉じたまま、耳だけ壁に付けて、あくまでちょっと寝返りをうったら手が勢いよく当たったんですよ~風だ。
特に変化は無かったので、今度は2回連続叩いてみた。
一応壁に耳を付けつつ狸寝入りをしているが、隣の部屋から物音は聞こえてはこない。
これはダンスの練習をしても問題無さそうかな。
そう思って目を開けようとした時。
「シーアでございます。怪しい物音が聞こえましたので、ご無礼だとは存じますがお部屋に失礼致します」
ガチャリと私の部屋の扉を開けつつ、警戒した声で喋るシーアが入ってきたようだ。あれ? シーアの部屋からは何も聞こえてこないと思ってたんだけどな。
ここで起きていることがバレた場合、何故こんなことをしたのかを訊かれるだろう。理由が理由なので、心配してくれたシーアには申し訳ないが、目を閉じたまま狸寝入りを続けることにした。
「お嬢様、そろそろ起きていただかなくては、授業に遅刻してしまいます」
「……えっ!? あ、あぁ、おはよう。シーア」
目を開けると朝日が眩しい朝になっていた。
どうやら狸寝入りをしている間に、本当に眠ってしまったらしい。
しかも割と遅刻ギリギリだ。
「はい。おはようございます。いつもよりお目覚めが遅かったようですが、ご気分は如何でしょうか」
「あら、そう。でも特におかしな所はないわ。私もたまには寝坊してしまうということね」
「左様でございますか、失礼致しました」
多分、昨日はいつもより遅くまで起きていたから寝坊しただけだと思う。私がエリエルになってから早起きになったのは、会社員時代よりも就寝時間が早まったからだろうし。
でも、遅寝になると目覚ましがある訳でもないため体調の心配をされてしまうのか。
シーアは慣れた手つきで私を寝着から制服に着せ替え、手早く髪を結う。肩口で縦ロールが揺れた。
「お嬢様、質問続きで申し訳ございませんが昨日の夜中、何か変わったことはございませんでしたか」
「え、えぇ。特になかったけれど。そんなことを訊いてくるだなんて、私が眠っている間に何かあったのかしら」
「少し不自然な物音が致しましたので、大変失礼だと存じてはおりますが夜中にお部屋に入らせていただきました。お嬢様が寝返りをうった際に、手が壁に当たった音だとは思われますが……万が一怪しいと感じましたら、すぐにお知らせ下さい」
「……ありがとう」
ここまで心配されてしまうとは、シーアのことを、いや、公爵令嬢という立場を甘く見ていた。
シーアは、確実に侵入者などがいた等という場合以外では、私が聞き返さない限りあまり怪しいことなどは話す気が無いらしい。無駄に脅かして睡眠の質が低下したり、ストレスを溜めさせないための配慮だろう。
しかし、夜に怪しい音がするとこれ程心配されることだったとは。
夜に秘密の特訓、良い案だと思ったけれど、今回は未遂だったけどするのは辞めた方が良いかもしれない。
ダンス、どうしよう……。




