12 もぐもぐタイムはまだですか
ここ1週間で行き慣れた食堂へ、後ろにサリアとタリア、そしてルドア王子とカイルが先導するようにして向かっている。ど真ん中に私を置いたのは何故だと問いたい。まるで捕まっているみたいではないか。
一応私は今、公爵令嬢なので、廊下を通るときに遠巻きに見られることが多かったが、ルドア王子が加わることで更に視線が突き刺さる。
ひそひそボソボソと、絶妙に何を言っているかは聞き取れない音量で話すのは辞めて欲しい。
連行スタイルで食堂に到着した。私は比較的お腹に優しそうな、油とお肉の少ない料理を頼む。ほら、何となくだけれど、緊張してお腹が痛くなったら大変だしね。
いつもの誰でも自由に座れる席とは違い、王族専用の個室へと案内された。
いや、此処はヒロインと親密になったルドア王子が、2人きりで食事をする場所じゃないか。
個室にしては広い室内に、食堂の物とは違うふっかふかな座り心地抜群のソファ。細やかで繊細な細工の施された机の上には、お料理が出来るまでどうぞ、と人数分の紅茶が置かれている。傷を付けたときのことなど考えたくもない。
最初の1日目以外を、カイルと2人で使用していたのは知っていたけど、何故今私と、側近のサリアとタリアを此処に呼んだのだろう。
サリアとタリアが私と同じように、緊張でガッチガチになっているじゃないか。
「さて、料理が来る前に、軽く話をしたいのだがよろしいだろうか?」
相も変わらぬ王道王子様爽やかスマイルで私を見てくる。だからその顔はヒロインに向けて欲しいんだって。私はそれを見守る壁になるから。
なんて伝えるわけにいかないので。
「かまいませんわ、ルドア様。改まってお話とは、どういった内容でしょうか」
この1週間で、私からすれば板についてきたと言っても良い、公爵令嬢としての、無難だと思う言葉を伝えた。
「ありがとう。まず、今日の授業、魔法訓練の時は助かった。感謝する。ミズキ嬢も大事には至らなかったようだし、他の生徒にも負傷者はいなかった。君の適切な判断と、知性のおかげだ」
「いいえ。褒められるようなことではございません。人として、当たり前のことをしたにすぎませんわ。あの場で動ける余裕が、偶然あったのが私だったというだけですから」
それに、ヒロインが一定以上貴方の好感度を上げていれば、ヒロインの頭上に淡い光を放つ光球を出したのはルドア王子ですよ。その時にルドア王子本人が、説明していたことを私がやっただけだからね。
そしてヒロインは気絶することなく、ルドア王子に更に惹かれていく……となるのだが、実際に目の前に存在するルドア王子が知る訳もないか。
「エリエル、君は学園に入学してから、かなり変わったようだ。入学式前までは、少し……目に余る言動があったが、今の君は公爵令嬢として相応しい……心持ちになったように思う」
ルドア王子、それは私の立ち居振る舞いは公爵令嬢らしくないってことですかね。割とそれっぽくなってきている気はしていたんだけれど。あぁ、ぽいレベルだから駄目なのか。
日本に居た頃は普通のOLだったので大目に見て欲しい。
まあ、そこは置いておくとして、ルドア王子は“私になる前のエリエル”と、“私になった後のエリエル”の性格や言動が違うと言いたいのではないだろうかと思う。
少し返答に困っていると、ルドア王子はそのまま聞いて欲しいと言うように私を見つめてくる。
だからそういうのはヒロインであるミズキにやってくれ。残念だと感じたことはないけれど、私はイケメンに見つめられても胸がときめいたりはしないのだ。
「そして、ここからが本題なのだが、今度の土曜日に夜会が行われることはエリエル、君も知っているだろう」
そんなのあったっけ? とは言える雰囲気ではない。
「昨日、コメット先生が朝のご挨拶の時に仰っておりました」
サリアが紅茶を飲むフリをして、小さな声で教えてくれた。何て気の利く側近なんだろう。
朝なら眠くて、聞き流していたとしても仕方がない。
「勿論ですわ」
今知りましたけどね。堂々としていればバレない筈だ。
「実は、母上がお忍びでいらっしゃるそうなんだ」




